Episode-Sub1-13 雨降って地固まる。乳揺れて股間固まる。

 リオン団長が、俺を好き……?


 今までのどこに俺に惚れる要素があったのか。


 おっぱいで情けなく性欲管理してもらって、バルルガンクとの戦いでも助けてもらった。


 はっきりと力になれたのはミュザーク戦くらいのものだ。


 俺が彼女の役に立てたことなんて、ほとんどない。


「……ふふっ。やっぱり驚いた顔してる」


 どうやら俺の心境までお見通しらしい。


 俺を押し倒していた団長はゆっくりと起き上がると、ポンポンと自分の隣を叩いた。


「ほら、こっちおいでよ」


「い、いえ、しかし」


「こういう話題だからさ。何も隠さずに、裸で話し合お? きっとお互いに考えてることもあるだろうしね」


 自慢のおっぱいを持ち上げるように腕を組んで、彼女はそう言った。


 言いたいことはわかる。


 あのリオン団長がここまで胸を開いて語り合おうとしてくれている事実も嬉しい。


 それだけ俺を信頼してくれているということだ。


 だが、それでも足が進まない俺を見て、団長は柔和な笑みを浮かべる。


「違うよ、ルーガくん」


「な、何がですか?」


「私は第六番団副団長であるルーガくんじゃなくて、ただのルーガ・アルディカとお話したいの」


 その言葉が、俺自身が被っていた優等生の仮面をそっと外してくれた。


 思い返せばいつからだろうか。


 俺が俺として話をしなくなったのは。


【剣聖】になりたいから。副団長として見合う人物になりたいから。


 そんな風にばかり考えて、金玉パンパンに破裂させるくらい我慢して、平静なら理解できていたはずの相手からの好意にも気づかないように感情に蓋をして。


「……どうしてリオン団長は、そう思ったんですか?」


「好きだからだよ」


「…………」


「気が付けばずっと目で追ってた。近くで見てきたもん」


 心のしこりを溶かしていく優しい声音。だけど、碧の瞳はゆるぎない確信をもって俺を見つめている。


 ……ははっ、ダメだ。


 俺は一生この人に敵わないんだろうなぁ……。


 ようやく前に進みだした足は迷いなく彼女の隣へと進む。


「ふふっ。こうして話すのは久しぶりだね」


「はい。団長が秘密を話してくれた、あの夜以来かも」


「懐かしいね。あの時もかなり勇気出したんだよ? ……だけど、今の方が緊張度は高めかも」


 冗談めかしたように彼女は笑いかける。


 それだけ団長は俺へ気持ちを吐露することを真剣に考えてくれていたということだ。


 ずっとずっと育ててきた愛を伝えるかどうかを。


 ……そんな大切なものを受け取る資格なんて俺にあるのだろうか?


「あ、あのっ」


「ん? なに?」


「自分のどこに団長に好かれる要因があったんでしょうか……?」


 結局、自身ではたどり着けなかった答え。


 俺はダメダメだ。


 こうやって本人に聞かないと理解することさえできない。


 だけど、本当に俺が好かれる理由がわからなかったのだ。


 友愛ならまだしも、男女としての好意など……。


「ルーガくんはさ、自分を卑下しすぎなんだよ」


「ですが、本当に俺は何も……」


「ほら、また。ルーガくんのそれはもう謙虚の域じゃないよ。自分を全然客観的に見れてない」


「すみません……」


「いいよ。これから私がたっぷり教えてあげるから」


 そっとリオン団長が体をこちらに預ける。


 さらさらの髪が少しこそばゆかった。


「ルーガくんはね、ずっと神経張りつめて私たちに優しくしてくれたでしょう?」


「それは副団長として、一人の人間として当たり前というか」


「その認識がまずおかしいの。当たり前にできるなら第六番団はこうなっていないし、数多くの退団者も出なかった。違う?」


「それは…………」


 団長が言っている事実は正しい。


 だから、二の句が継げない。けれど、俺は本当に特別な行為はなにもしていないんだ。


「俺は……ただ誠実であろうと心がけていただけで……」


「それが凄いことなんだよ、ルーガくん。君が来てから、うちの団もとっても明るくなった。男性嫌いだった子が、こういう人もいるんだって前を向くことができた」


 ……団長は決して慰めの嘘をつかない。


 いつだって、誰にでも誠実であろうとする聖騎士の鑑のような人だから。


「君の優しさが、過去という足かせを少しずつ外してくれた」


 俺も尊敬して、この人のようにあれたらいいなと常日頃から憧れていた。


 だから、もし。もし、団長の言う通りであったとしたら。


「そんな何気ない時間が、仕草が、言葉が、私たちにとっては救いだったんだよ?」


 頑張りが報われたような気がして、思わず涙腺が緩む。


 俺がしてきたことは無駄なんかじゃなかった。


 あの辛かった日々を認められて、俺という存在を受け入れてくれていたんだと理解して、無意識に孤独に感じていた心が絆される。


「だって、そうじゃない?」


「今も男嫌いな私がこんなに楽しい日常を過ごせているのもルーガくんが優しくしてくれたから」


「その優しさが私にとってはすごく嬉しかったんだ」


 彼女はとても幸せそうな表情で俺との思い出を語ってくれる。


「だから――君を好きになるのは必然だったんだよ」


 もう、我慢の限界だった。


 言葉の一つ一つが染み込んできて、心の喜びこえが涙となって溢れ出る。


 そんな俺を団長は嫌な顔せずに、抱きしめてくれた。


「どんな君だって受け入れる。優しいだけじゃない、もっともっといろんなルーガくんのことが知りたい。そして、最後に君の隣で笑えたら嬉しいな」


「……っ!」


 声にならない声をあげながら、ぎゅっと彼女の身体を抱きしめた。


 それから俺が泣き止むまで、団長はずっと頭を撫でてくれる。


 掌から伝わる温かさが心の奥深くに染み込んでいった。



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「す、すみません……! 泣き散らしちゃって……!」


「いいのいいの。お風呂だからすぐ洗い流せるしっ。そーれーに……ふふっ」


「……?」


「あんなに泣いたってことは情けないと思っていた一面を私に晒してもいいと思ってくれたわけでしょう? それが今はすごく嬉しいの」


 えへへ、とリオン団長はいつもの様子でそう言った。


 そんな彼女の笑みに思わずドキリと胸が高鳴る。


「さてさて、本当なら返事を聞きたいところだけど……その前に」


 ツンと俺の頬をつつくリオン団長。


 彼女は怒っているのか、プクリとほっぺを膨らませている。


「ルーガくん。私に何か隠しているでしょう」


「え゛っ!?」


「隠しても無駄なんだから。言ったでしょ? ずっと見てるって。ちょっとでも隠し事していたら気づくよ」


「あははっ……」


 ……本当にこの人には敵わないなぁ。


 ……今までだったら誤魔化していたかもしれない。


 この人に迷惑をかけてはいけないと。あくまで俺が個人的に抱えた案件だから。


 第五番団の団長就任の件……しっかりリオン団長に話そう。


 自分の気持ちも全部伝えて、話し合いたい。


 だけど、その前に一つだけ片さねばならない案件がある。


「結構いろいろとあるんですけど……団長……いや、リオンさん。俺に力を貸してください」


 そして、これが終わったら――応えよう。


「もちろんだよ、ルーガくんっ」


 ずっと目をそらし続けてきた、みんなからの想いに。


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