Episode-Sub1-8 振出しに戻る(状況悪化)
不運は重なるもの。流れが悪い時はとことん悪い方向へと流れていくのだ。
確かに一般的な価値観に照らし合わせれば、贔屓目に見ても可愛い幼馴染からの求婚を嫌がるなんて殴られてもおかしく
「……それはどういう意味だ、ウルハ」
とはいえ、幼馴染のお願いを無碍にはできない。
それに彼女は俺と結婚したいと言ったわけじゃない。
もしかしたら、ただ昔馴染みの俺を頼ってくれただけなのかも――
「……そのまんまだよ。ルルくんのお嫁さんにしてほしいの」
――なるほど。
ウルハは瞼を閉じて、恥ずかし気に左手の甲をさすっている。
「……本気なのか?」
「そんなひどいことする女に見える?」
「いや……すまん。だけど……」
「だけど、なに?」
その先を言おうかどうか迷い、口を濁らせた俺はとりあえず幼馴染に伝えなければならないことを口にした。
「……なぜか婚約者になりたいって人が俺の家に来てる」
「えっ」
「それも4人……」
「ルルくん……聖騎士じゃなくて結婚詐欺師になったの?」
今日、俺は初めて幼馴染から侮蔑の視線を向けられた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この世界において結婚様式は多岐に渡る。
国ごとに法律で決められていて、俺たちが住むエルバティア王国は一夫多妻制が認められている。
だけど、中には愛する相手に複数の妻がいるのは嫌だという女性もいるだろう。
シスターは友だち判定だからセーフなだけで……。
とにかくフレア様はそちらに近しい思考の持ち主だったってだけの話だ。
「――で、新たな女を引っかけてきたと?」
「ひっ!?」
聖女様の圧を初めて受けるウルハが俺の隣でビクリと肩を震わせた。
あぁ、最初はこうなるよね。なるなる。
俺も未だに慣れなくて金玉が震えてる。
肩や足が震えるのを我慢するかわりに股間を震わせるのは最近の俺にとって必要な技術だ。多分、訓練すればどの聖騎士も使えると思う。
俺のあだ名が本当に【お金玉公】で定着してしまうからしないけど。
それでなくても【剣舞祭】での事件以来、部下に【お金玉公】ってなんですか? って聞かれているのだ。
もちろん気のせいだよ、と諭したら信じてくれるからまだマシだけど、これ以上悪化しないように気をつけなければならない。
状況を説明すれば、話のつじつまがあうように幼い頃に婚約を結んだ幼馴染とみんなには説明してある。
それでいて俺は小さい頃の話だから本気じゃないと思っていた。だから、今も驚いているという体だ。
字列だけ見たらただのクズである。
【お金玉公】に勝るものもないので甘んじて受け入れることにした。
「ル、ルルくん……! こんなの私、聞いてないんだけど……!」
「俺だってわからなかったし……。なんなら知らない間に全員家に来てた……」
「は!? この人たちヤバいんじゃないの!?」
「普段は優しい人たちだから……」
「そんなDV関係みたいな……!?」
「あれぇ……仲良しですねぇ。お二人でコソコソと、ねぇ……先輩?」
またブルブルと俺のタマタマとウルハの肩が震えた。
姑が二人に増えた……!?
戦力差は圧倒的! 圧倒的です!
なんとかあっちの誰かを引き込めないだろうか。
でも、仲間になってくれそうなのはシスターとリオン団長しかいない。
「あぁ、神よ……無力な私をお叱りください……」
「ふ、二人とも目が怖い……」
……うん、増強は期待できなさそうだな。
「あっ! ルーガくん、なんかいま失礼なこと考えた顔してた!」
「考えてません! 考えてません!」
「落ち着きなさい、リオン団長。……さて、ウルハさんでしたか。あなたも私の旦那様の妻になりたいと……そういうことですね?」
あれ? もう俺結婚してることになってる?
婚約どころかお付き合いもすっ飛ばしてるんだけど。
「待ってください、聖女様。あなただけのものではありません」
「わかりやすく説明するために使っただけです。細かなところまで気にされるんですね、マドカ団員は」
「あわわわわ」
この空間初体験のウルハが完全に委縮してしまっていた。
「さて、私たちは話し合いました。妥協に妥協を重ねた結果、1週間をそれぞれで半分ずつに分けようと。しかし、ここに新興勢力が混ざるとせっかく決めた予定が崩れてしまいますね……」
チラリというより、ギラリだろうか。
鋭い視線がウルハを貫く。ウルハのライフはもうゼロだ。
ここで彼女が引き下がるようなら後から俺がそれとなく話を付けておこう。
……そう考えていたのだが。
「わ、私たちは小さい頃から将来を約束した仲ですので……ゆ、優先されるべきは私だと思います」
ウルハは引かずに応戦してみせた。
ぎゅっと力強く俺の手を握りしめて。
「……ふぅん」
一分が一時間にも思える重い沈黙。
だが、それはフレア様の一言により終わりを告げる。
「……仕方ありませんね。あとから土足で乗り込んだのは私たちの方みたいですから。嘘でなければ、の話ですけど」
「っ……」
「ふふっ、そうおびえないでください。マドカ団員。こういう事情ですから私たち二日。あなたたちで二日。幼馴染さんに二日。この割り振りで手を打ちませんか?」
「……飲みましょう。どうやら込み入った事情もありそうですから」
……これは二人にはバレてると考えたほうが良いな。
やはり女性はそのあたり機敏なのだろうか。
今回は少しばかり暴走してる気もあるが、やはり他人に優しくできる人たちなのだ。
「では、誰からこの権利を使用できるか賽に運命を決めてもらいましょう」
スイスイと進んでいく会談。
フレア様は懐から取り出した木の賽をコロコロと転がす。
「1と2は私たち。3と4はリオン団長たち。5と6は幼馴染さん……あらあら、女神様は私たちに微笑んでくださったみたいです」
テーブルの上で止まった賽の目は2。
つまり、フレア様たちがまずは俺を二日間独占できる。
ちなみに、俺は独占されることになんも了承していないが、そこに言及するともっとひどい事態に発展しそうなので黙っている。
むしろ、5人一斉に襲い掛かってこないだけ幸せともいえる。感謝せねば。
「くっ……」
前のめり気味のマドカは悔しげにつぶやいた。
「次は……3。これで順番は決まりですね」
異論は一切挟まれない。
これでつつがなく会談は終わり、どっと緊張が抜けた俺はだらしなく背もたれに体を預ける。
そんな俺の手を掴むフレア様とシスター・ライラ。
「というわけで、まずは私たちですが……久しく童心に帰った遊びをしたいと思っています」
「き、きっと【お金玉公】も喜んでくれると思いますから……」
「は、はぁ……」
いまいちピンとこない俺に対して、フレア様はパチンとウインクしてみせた。
「というわけで、川に水遊びにでも行きましょうか、ルーガ副団長?」
俺の目はこの休暇で使い物にならなくなるかもしれない。
そんな予感にひきつった笑みを浮かべながら、俺はフレア様とシスターに引きずられるように家の外に出た。
そんな状況下でも両腕を挟むおっぱいの柔らかさに喜ぶ脳が少しだけ怨めしかった。
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