Episode-Sub1-6 泣きっ面に団長と後輩
え……? え……?
なんで二人がここに……!? 確かに王都で二人に見送ってもらったはずなのに。
状況が飲み込めない。
なぜか目の前でお茶を飲んでいるフレア様とシスターがいる、わかるのはそれだけだ。
というか、母さんも父さんもなんで普通に相手してるの……?
めちゃくちゃ俺の上司なんだけど……。
「あらあら、ルーくん! おかえりなさい!」
ワインレッドの髪を三つ編みでまとめている母さんは楽しげな様子で出迎えてくれる。
いつもニコニコと笑顔を浮かべている人で、俺が他人に優しくあろうと思えたのは母さんの教育があったからこそだ。
元はそこそこ名のある貴族家の娘だったらしいから、フレア様たちに失礼な振る舞いはなかったと信じたい。
「うん、よく帰ってきたね、ルーガ。長旅で疲れただろう。座りなさい」
柔らかな言葉使いでねぎらってくれる父さん。
昔は凄腕の冒険者として活躍していて、母さんと出会ったのも数多く受けてきた護衛依頼の一つがきっかけだったらしい。
なぜか二人のなれそめを話す時、父さんは遠い目をするけど。
俺に体の動かし方や戦術について叩き込んでくれた自慢の父親である。
「え、あ、うん」
「はははっ、嬉しいな。まさかこんなはやく息子と再会できるなんて」
ポンポンと肩を叩かれた俺は言われるがままに父さんの隣に座ろうとする。
「私の
だが、それはフレア様の一言で止められた。
「……あなたはこちらでしょう?」
「は、はいっ」
慌てて背筋を正した俺はフレア様とシスターの間に腰を下ろした。
両親と対面するように俺たち三人は並ぶ形になる。
「ふふっ、ルーくんったらすでにラブラブなのね」
「あっ……」
息子の色恋沙汰に興味津々な母さんと対極的に何かを察した表情の父さん。
聖騎士になるまではよくわかっていなかったが、今になって父さんが苦労してきたのだと理解した。
「はい、ルーくん、お茶。熱いから気をつけてね」
「う、うん、ありがとう」
と、とにかく落ち着きを取り戻そう。
ふぅ……お茶の温かさが身に染みる。母さんが淹れてくれたお茶は美味しいんだよなぁ。
このレベルにはいつになっても追いつける気がしない。
「それにしても……ふふっ」
「どうかした、母さん?」
「ルーくんも大人になったんだなぁって。母さんもね、昔は恥ずかしがるお父さんとデートするためにいっぱい頑張ったなぁ」
「か、母さん! ぼ、僕たちの話はまたにして……ほ、ほら! 今はルーガとその婚約者さんが来ているんだし」
「ブフッッッ!? ゲホッ、ゴホッ!?」
……っ!? こ、婚約者っっっ!?
「あらあら、ルーガったら……」
「フ、フレア様!? い、今のはどういう……!?」
「ふふっ、ごめんなさい。先に話しちゃいました。私の騎士の英雄譚を」
「そ、それは構わないんですが、ど、どうして婚約者と……」
「ルーくんったら照れちゃって可愛い。フレアちゃんに『二度と涙を流させない』なんて言ってあげたんでしょう? 立派に育ってお母さんは嬉しいわ」
「そ、それは……!」
「ライラちゃんとも誰にも言えない秘密を語り合った仲だって聞いたわ。こんな可愛い女の子、二人を口説き落とすなんて……もう! お父さんに似て、モテモテなんだから!」
俺は慌ててシスターへと顔を向ける。
すると、高速で顔を背けられた。シスターもこの勘違い騒動に一枚かんでいる。
み、味方がいない……!
二人ともきっと両親に嘘はついていないのだろう。
フレア様がこういう行動をとる理由はわかる。
今だって忘れられないんだ、あの唇の感触が。
フレア様は俺が好き。それもみんなの前でキスするくらい好き。
……あっ、やば、復唱したら恥ずかしくなってきた……。と、とにかくその事実はもう受け入れている。
だから、俺との関係を進めるために実家にやってきた。
シスターは巻き込まれたってところか。
「あっ、そうだ。二人ともルーくんの部屋に泊まるらしいからよろしくね」
「はぁ!?」
「安心してね。お母さんたちはその間、別の家にお世話になるから。お昼も夜も楽しんで?」
「まぁ、お義母さま! お気遣いありがとうございますわ」
「よ、よ、夜も……わ、私、頑張りますっ!」
「い、いやいやいや! 俺たちに遠慮しないで! 久しぶりの家族水入らずなんだし、母さんと父さんも家にいてよ!」
二人がいなくなったら、それはもう性騎士として性剣をいっぱい振って、性夜を過ごすことになるだろう。
なぜなら、テーブルの下でフレア様がめちゃくちゃ太ももを撫でているからだ。
まさかここまで攻勢が強烈だとは思っていなかった。
【剣聖】様の勇敢な血が受け継がれている証拠か……。
「ルーガ……男にはな、どうしようもできないときだってあるんだ」
「父さん!?」
こんな場面で尊敬する父さんの情けない言葉は聞きたくなかった。
はははっと乾いた笑いをする姿には哀愁さえ感じる。
「じゃあ、ルーくんの元気な姿も見れたし、私たちも移動しましょうか。あとは若い者同士で楽しんでもらいましょう、ね、お父さん?」
「……頑張れ、ルーガ」
「と、父さん……」
ど、どうしよう……。
もうすでにぽんぽんぺいんだし、近日中にたまたまぺいんになる未来も確定した。
この状況をどうにかしなければならないのに、何も打開策が思いつかない。
俺が婚約者じゃないと訴えてもすでに外堀が埋められていて、母さんたちは信じ切っている様子だし……。
打つ手なしとは、このことか。
誰か……誰だっていい。どんな方法だっていい。
この空間から俺を救い出してくれ――!
そう祈った瞬間、神様へと通じたのかドアが大きな音を立てて開く。
太陽の光に照らされるは二つの人影。
差し伸べられたのは――
「お、お義母さま! お義父さま! 初めまして! ルーガくんと熱い夜を過ごしたリオン・マイリィと申します!! 息子さんを私にください!!」
「いつも先輩にはお世話になっております。はじめまして、後輩のマドカ・ルシャールと申します。率直に申し上げますと、ルーガ先輩との結婚を認めていただけますでしょうか」
――死という名の救済だった。
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