Episode3-4 ルーガは逃げようとした。しかし、まわりこまれてしまった!
「あっ、カルラさん。巡回お疲れ様です」
「おー、ルーガおつか……お前、首のそれどうしたんだよ?」
「え? なにか付いてます?」
「おう。手の跡がくっきりと」
「あー……実はちょっと寝つけなくて……なので自分で絞め落としました」
「どういう思考してたらその結論に至ったのかアタシは心配で仕方がないんだが……」
「大丈夫ですよ? こういうの(目潰しとかおっぱい対策)は慣れてますし」
「(首絞めするの)慣れてんの!? ちゃんと診察してもらって薬とかもらってこいよ!」
「そんな大げさなものでもないですよ。じゃあ、大聖堂に行ってきます」
「……あいつはアタシが思っている以上に大バカで大物かもしれねぇ……」
そんなやりとりをはさみつつ、二度寝(強制)から目覚めた俺は大聖堂にやってきていた。
隣には団長がいなかったので無事に朝礼には間に合ったのだろう。
これで俺が童貞だと確定したな。
もし卒業していたら起こされていたはずだから。
ホッと胸を撫でおろした俺は意識を切り替え、懺悔室の主へと声をかける。
「おはようございます、シスター」
「まぁ、【お金玉公】……! ご無事に帰ってこられたのですね」
「ええ、なんとか。ギリギリではありましたが」
「お疲れではありませんか?」
「大丈夫です。すでに十分な休暇をいただきましたし、シスターとの約束もありますから」
ガリアナから帰還した後、団長とどんな仲になったのか。
それをここまで相談に乗ってくれたシスターに報告するためにやってきていた。
もちろんここは懺悔室。新しい悩みも胸に抱えている。
数日後に行われる予定の聖女様とのお茶会についてシスターにお力添えを願えればと考えていた。
「……あぁ……その【お金玉公】。お話の前に私からも聞きたいのですが……」
「はい、なんでしょう?」
「あなたは上司様と恋仲ではないのですよね?」
「恋っ……ゴホン。そうですね。俺はまだまだあの人に釣り合う人間ではありませんから」
「では、好きなのですね?」
シスターの質問に言葉が詰まる。
なぜなら、俺ははっきりと団長を好きと言える自信がなかった。
管理とかいろいろとすっ飛ばしてしまったせいで、これが恋愛感情なのかどうかわからなくなってしまったのだ。
俺は団長に性欲を抱いていただけのクズなのではないか。
もしそうならば、そんな男が団長を好きだと公言していいわけがない。
「実はよくわからなくて……」
「はうっ!?」
「どうかしましたか?」
「い、いえ、なんでもありません。……これは上司様に襲われた結果、好意が揺らいでしまったのでは……。あぁ。私が止めれなかったばかりに……」
「シスター?」
「……すみません、【お金玉公】。少しばかり取り乱してしまいました」
「は、はぁ……」
シスターが珍しい。だが、彼女も人の子だ。
そうだ。思いもつかなかったが、悩みを聞く立場にあるシスターだって誰かに相談したいことがあるはず。
だったら、人の懺悔を聞き続ける彼女はいったい誰に悩みを打ち明ければいいのか。
本職に対して烏滸がましいかもしれないが、シスターには何度も助けられてきた。
戦友として俺も少しでも力になりたいのだ。
「シスター。もしかして何か悩みを抱えていらっしゃいませんか?」
「……やはりわかりますよね。すみません」
「いえいえ。自分とシスターの仲ではありませんか。もし自分にできることがあったら協力させてください」
「【お金玉公】……。ありがとうございます。……修道女と相談者ではなく、友人という立場で甘えさせて頂いても?」
「もちろんです。何でも言ってください!」
そう答えると、シスターが「ふふっ」と微笑んだ。
彼女が俺を頼りにしてくれたのも喜ばしいが、何より友として思ってくれているのが嬉しかった。
金玉から始まる友情もあるのだから世の中もまだまだ捨てたものじゃないな。
「では、上司様との最近の出来事を教えてくださいますか?」
「え? そんなことでいいんですか?」
「はい。それが私の気持ちを晴らす唯一の方法なのです」
「わかりました。そこまで言うなら……」
男に二言はない。
俺は金玉爆発の相談からどんなことが起きたかを簡潔に語り始めた。
「上司と性欲管理をする関係になりまして」
「ええ……」
「帰ってきたらさっそく管理してもらいまして」
「……ゴクッ」
「それから(俺を気遣って)管理に誘われるようになって」
「……あぁ、やはり(我慢せずに襲ってしまったと)……」
「今朝は(酔っぱらって)一緒に寝ていました」
「……(そのまま交わりあって)寝てしまった……と」
「恥ずかしながらなかなか寝ることができず(自分で絞め落としたから)こんな時間の訪問になってしまいました」
「……(上司様が解放してくれないから寝れないという)さっそく【お金玉公】に影響が……」
「実はそれについてもシスターに相談したくて……シスター?」
「すみません、【お金玉公】。自分がしでかした事の重大さに罪悪感がいっぱいで……」
大きい溜息が隣の部屋から聞こえる。
今の俺の話になにか引っ掛かる部分でもあったのだろうか。
ただののろけ話だと突っ込まれてもおかしくないくらいなんだけど……。
「シスター。気になさらないでください。俺はピンピンしていますから」
「【お金玉公】……」
「それでシスターの悩みは解決できましたかね?」
「……ええ。できました。……なんとか上司様の目を覚まさせないと……【お金玉公】。もう一つお願いがあります」
「なんでしょう?」
「今度、上司様と一緒に懺悔室に来てもらえませんか。ぜひ一度、お話がしたくて」
「わかりました。聞いておきます」
団長とどんな話をするのか予測がつかないが、シスターならば変なことにはならないだろう。
「ありがとうございます。とは言いましたが、私も少しばかりお仕事で懺悔室を空けることになるのですが」
「そうなんですか?」
「はい。今度、聖騎士養成学園の【剣舞祭】にて生徒様向けに懺悔室を開くことになりまして」
「すごくめでたいじゃないですか! おめでとうございます!」
【剣舞祭】かぁ……。あの大会を優勝できたから今の俺があると言っても過言じゃない。
懐かしいな。
ずっと同年代とじゃなくて一つ上の俺に絡んでいたけど周りの奴らと仲良くやっているだろうか。
「ふふっ、ここまで私が成長できたのも【お金玉公】のおかげですよ」
「いやいや、俺は何もしていませんから」
「いいえ。人生初めての相談内容が『金玉痛い』でなければ私は多くの人々を救うことはできなかったでしょう」
急にシスターに謝罪したい気分になってきた。
「ですから、また私が戻ってきてから上司様も含めた三人でお話しましょう。心配しないでください。私が必ずなんとかしてみせます」
それは俺と団長の仲について説教する感じだろうか。
いや、それが正しいんだ。
団長を好きと言い切れない男が管理してもらっている今の状況が可笑しいのだから。
……だから、俺も決めた。
次の相談までにリオン団長への気持ちを確固たるものにする。
『愛』なのか『尊敬』なのか。
自分自身に向き合おう。
「わかりました。ぜひよろしくお願いします」
「ええ。シスターとして、友として、正しき道へと導きます」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
シスターとのお話が終わって十数分後。
何かを忘れている気がするものの、気持ち新たに第六番団の隊舎に帰ってきた俺の視界に飛び込んできた珍しい光景。
マドカがリオン団長と向き合っていた。
なぜか目元が笑っていない笑顔で。
不思議な光景に何が起きたのか聞こうと二人のもとに駆け寄――
「どうしてリオン団長がルーガ先輩の部屋から出てきたのでしょうか?」
「え、えっと、それは……」
――らないでUターンする。
だが、神は悪を許さない。
ちょうど巡回から帰ってきたカルラさんとかち合った。
「おう、ルーガ。お前、そこでなにしてんだ?」
その瞬間、背中に強烈な視線がぶつけられたのを感じ取る。
……さてと……どうやってこの状況を乗り切ろうか……!
◇あとがき◇
本作がラブコメ年間ランキング1位になりました。
仕事の影響で投稿期間が空いてしまっている中、たくさん読んで頂きまして
『団長のおっぱい』の読者のみなさま本当にありがとうございます。
これからも彼ら彼女らの物語を続けられるように精進いたしますので、応援よろしくお願いいたします!
6月中旬には落ち着くので、そのころにはまた投稿ペース戻ります!
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