Episode2-17 天敵
「ほらほら! 当たったら痛いわよ! 【紅の魔弾】!!」
「うぉぉぉぉっ!!」
壊れるのなんてお構いなしに放たれる火の玉。
いくら加護の鎧を纏っているからとはいえ喰らえばダメージは大きい。
床を走り、壁を走り、魔法を避ける。
人類と魔族の違いとして大きく挙げられるのは魔法の存在だ。
人類が使える魔法はかなり少ない。
そもそも魔法という存在がまだ未知の領域にある。
人類が抵抗できる理由は【加護】の力が大きく占めるのだ。
「アハハハッ! 最初の威勢はどこに行ったのかしら!」
絶え間ない攻撃に防戦一方。
このままでは負けるのも時間の問題だ。
「これが魔王軍幹部の実力か……!」
「怖気ついたかしら! 【蒼の魔弾】!」
「そんなわけないだろ!」
氷の魔法は受けてしまえば足を奪われ強制的に戦闘終了。
ならば下手に逃げに徹するよりも、あえて受けて立つ。
「うぉぉぉらっ!」
体を翻して黒剣を回転させて、魔弾を弾き飛ばす。
そのまま飛び上がって、一瞬の攻撃へ転じる時間を作り上げた。
「聖剣十式・一の型――飛竜!」
「んふふ……【紅の鎌】」
辛うじて打ち出した飛竜も鎌状の炎によってかき消されてしまう。
くそっ……このままだとジリ貧で終わってしまうぞ。
血液を消費して【黒鎧血装】の力を発揮させるにも、突破口が見つかるまでは無駄打ちできない。
これが本物の強者……!
「ねぇ? そろそろ終わりにしない? どうあがいても坊やでは私には勝てないわ」
「だったら、無抵抗に斬られてくれないか? 俺の勝ちで終わる」
「しつこい男は嫌われるわよ?」
「お前に好かれる気はさらさらないので結構!」
未だ玉座から動かないレクセラへ向けて駆け出す。
奴を倒す奥義はある。しかし、それを打ち込み確実に倒すためにはゼロ距離が必須。
魔法に邪魔されないように距離を縮める。
もっと、もっと、もっと!!
「諦めないのねぇ…‥【蒼の魔弾】!」
「うぐっ!」
距離を詰めることだけ考えて最小限しか回避行動はとらない。
鎧の上から遠慮なしに体を打ち付け、痛みがほとばしる。
鎧を冷気が覆っていくが脚さえ止まらなければ問題ない。
このダメージは必要経費。
「お前を倒して俺は帰るんだ! みんなのもとへ!」
大地を蹴る右足にタメを作る。一気に解放して、レクセラの前方上空へと跳んだ。
「空中じゃ避けられないわ。【蒼の魔弾】!」
お前の言う通りだ。
だが、俺は逃げ場をなくしてジャンプしたんじゃない。
お前の攻撃を誘い出すためにわざと跳ぶ選択肢を取った。
全ての魔弾を鎧で受けきるためにな。
「【黒鎧解除】!」
氷漬けにされて固まった鎧を解除し、生身でレクセラの前に飛び出す。
短くなった黒剣を両手で握りしめる。
あとはこいつをお前の額にぶっ差すだけ!
「俺の勝ちだ、レクセラ!」
「きゃぁぁぁぁ! ……なーんちゃって」
パチンとレクセラが指を鳴らす。
その瞬間、俺と奴の間に氷の壁が立ちはだかった。
「ぐあっ!?」
俺の不意を突いた一撃は防がれ、勢いのままに激突してしまう。
グラリと脳が揺れ、生まれた隙を当然見逃してはくれなかった。
「【蒼の魔弾】」
「ちっ!」
なんとかバックステップして距離を取るものの完全に避けきることは不可能だった。
直撃した左腕はピキピキと音を立てて、氷結されていく。
不味い……! 片腕を封じられた状態で、魔王軍の幹部と立ち会うのは分が悪すぎ
る。
「安心して、坊や。殺しはしないわ。あなたは私のおもちゃとして大切にしてあげるから」
初めて立ち上がった奴はゆっくりとこっちに歩み寄る。
「だけどね。ご主人様に逆らうペットはいらないの」
サキュバス特有の淫紋があやしいひかりが灯る。
「だから、あなたに自ら望んで私に媚びる機会を与えてあげる」
そう言って彼女は天へと両手を掲げる。
淫紋から腕を通って、手にたまっていく紫色の光。
徐々に大きくなっていき、バチバチと音を立てていた。
「……今までもその魔法で人々を脅してきたんだな……!」
「残念、外れよ。これはね……みんなが幸せになれる魔法なの。誰もが味わってしまえば意識を保てずに幸福に狂う。坊やは果たして耐えられるかしら。究極の快楽に」
「俺は聖騎士だ! どんな欲望にも決して屈しない!」
「ふふっ。今からあなたに使うのは坊や自身が今まで経験してきた
「なんだと……ん?」
俺が経験してきたセックスの快楽……?
「今ごろ怖気づいてももう遅いわ。さぁ、イキ狂いなさい――感度100倍の世界で!」
そして振り下ろされた彼女の手から紫色の光が撃ち放たれた。
同時に俺は賭けに出て、走り出す。
おそらくだが予想が正しければ、この秘術とやらは……!
「【
「――飛竜!」
「ぎゃぁぁっ!?」
俺の斬撃波がレクセラを捉えて初めてダメージを与える。
吹き飛ばされた衝撃でご自慢の身体に傷をつけた。
その事実すら忘れるほどに、まさか俺が動けるとは微塵も思っていなかった奴は動揺している。
「わ、私の魔法が効かない……!? なぜっ!?」
どうやら本気でまだ気づいていないみたいだ。
それも致し方ないだろう。
なぜならば、この街において俺はお前の秘術をくらわない唯一の存在だから。
色欲と快楽が当たり前の世界で生きてきたレクセラには理解ができない天敵とも言える。
「いいぜ、教えてやるよ。サキュバスの女王・レクセラ」
『
「【黒鎧血装】」
動かない左腕に代わって、右腕で黒閃を薙ぎ払う。
現れた黒の鎧の威厳に、レクセラが喉を鳴らす。
「お前を葬る者として名乗ろう」
「我が名は守護騎士団・第六番団所属、ルーガ・アルディカ」
「――童貞だ」
◇『第二章 風俗街調査編』あらため『第二章 俺だけが童貞の街 編』◇
◇感想返し遅れてごめんなさい。明日にまとめてします!◇
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