第62話お兄ぃをお願いします

ガタンゴトン…ガタンゴトン…


『ピンポンパンポーン♪次は…』


「あ、水瀬さん。次て降りますよ」


「うん、分かった」


私の名前は和泉雫。

今は実家に帰るために新幹線の通っている大きい駅に水瀬さんとやって来ていた。


「あの…雫ちゃん」


「はい?」


「あのね…雫ちゃんから見て私は認めて貰えたのかな?」


そう言い水瀬さんは真っ直ぐに私の目を見てきた。


「雫ちゃんが必死に真琴さんを守ろうとしてるのを見てね、思ったんだ。多分昔に何かあったんだなって」


「……」


「でね、踏み込んでいいのかダメなのか…全然分からなかったの。もし下手に踏み込んで真琴さんが傷つくのを…私が嫌われるのが怖かったから」


「……」


「でも、私決めたんだ。私は真琴さんが好き。好きだからこそ…苦しんでいるなら助けたいし、護りたい。けどね、私一人じゃ難しいと思うの。だから…その…えっと…」


と、オドオドしながらも必死に言葉を探そうとしている水瀬さんを見て思う。


水瀬さんは…園崎香織アイツとは違うんじゃないかって。アイツは…自己中で傲慢で人としてのクズに居た。でも、見た目だけは良かったからお兄ぃが好きになるのに時間はかからなかったと思う。

…許せなかった。悔しかった。私はアイツの正体を…裏を知っていたのに何も出来なかったから。

そしてボロボロになったお兄ぃがあんなに悔しそうに、悲しそうに、全ての絶望の感情をむき出しにして泣いている姿はもう見たくない。


だからこそ私は決めた。

お兄ぃは私が…私一人でも守り抜くと。


でも…水瀬さんを見ているうちに私の想いは変わっていった。

確かに美人で胸が大きくて少し抜けているところのある人だけど…お兄ぃに対する想いは本物だった。

純粋で無垢。恋を知って嬉しそうにお兄ぃと話したり…幸せそうな顔でご飯を、お弁当を作ったり。

多分お兄ぃは自分があの時に失った感情…を取り戻すだろう。

でも、それを思い出したらどうなるかは分からない。今は別々で暮らしているし何かあっても私はすぐに助けてあげられない。


だから…悔しいけど…


「水瀬さん」


私は口を開いた。


「えっと…その…え、どうしたの?」


最後にこの人だけは…信じてみよう。


「詳しい事は本人から聞いて下さい。私の口からは何も言えません」


「うん…」


「でも、一つだけお願いがあります」


私は水瀬さんに頭を下げた。


「え、ちょ!雫ちゃん!?」


と、駆け寄ろうとした水瀬さんに私は言う。


「お兄ぃを…真琴君をよろしくお願いします」


「…え?」


「悔しいですが貴方は本当にお兄ぃが好きだと感じました。そしてさっき言った言葉もきっと本当なのでしょう」


と、私が言うと水瀬さんは顔を引きしめ…


「うん。それは本当だよ」


と、力強く言った。

私はそれを聞いて軽く微笑みながら言葉を紡ぐ。


「なら、お願いします。側にいて本当はとても弱く…変に我慢強くて何かあっても人に話そうとしないお馬鹿さんですが、貴方なら…さんならお兄ぃを救えると思います。私は…花音さんのその気持ちを信じます」


「雫ちゃん…!」


と、こちらに歩いてくる花音さんを手で制し…


「ただし…」


私は言う。この言葉だけは伝えないといけないから。


「お兄ぃを傷付けたら…分かりますよね?」


「…ひっ!だ、大丈夫!絶対に裏切らないから!」


私はそれを聞いて威圧感を解く。

これが私に出来る最後の事。後は頑張るんだよ…お兄ぃ。


〜水瀬 花音 視点〜


「は〜…怖かったよぉ…」


私はさっきの雫ちゃんの顔を思い出し身震いをした。ちなみに雫ちゃんは新幹線に乗って帰って行った。


「雫ちゃん…あんなに怖い顔してた。それほど真琴さんが大切なんだよね…」


そしてそれを私に任せて…違う。支えて欲しいとお願いしてきたのだ。

本人には言えないけどあの重度のブラコンさんがお願いするのだ。それなりの覚悟が必要だろう…と。


「うん、任せて雫ちゃん。私はずっと支えるよ。何があっても…もし、嫌われても」


そう、私のこの初恋の物語はここから始まるのだ。そして多分その恋は簡単には実らない。きっと大変なことが有るのだろう…。

でも、初恋を…恋を知った女の子は何よりも強いって事を見せてあげるからね!


「覚悟して下さいね…真琴さん!」


私はそう自分を鼓舞し歩き出す。


どうやったら真琴さんが笑顔で喜んでくれるのか考えながら…。


〜???視点〜


「ふんふ〜ん♪」


私は鼻歌を歌いながら歩く。

初めて見る景色、聳え立つビル群。

そして…


「おい、清水〜。歩くの疲れた…」


「頑張れ…あと2件で終わるんだ…」


昔なじみの懐かしい背中を見て私は微笑むのだった。

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