第2話まさかのお隣さん

「おい、和泉!ここ間違ってるぞ!」


「は、はい!」


「ったく、本当にトロ臭いなお前は」


「すみません…」


あれから1週間経った。

そして俺はいつもどうりこれまた部長のミスなのに俺のせいにされこき使われる毎日を送っている。


「それにしてもあの子可愛かったなぁ…」


思い出されるのは俺を助けてくれた少女…水瀬さんの事だ。


「はぁ…いい事無いかな…」


「和泉!何ブツブツ言ってんだ!仕事しろ!」


と、ハゲ散らかしている部長に叫ばれた。


「すみません!!」


そして俺はもう恋人と言っても過言ではないパソコンを弄くり回すのであった。


カタカタ…カタカタ…


それから時間は過ぎ…時刻はよる9時。


「やっと…終わった…」


クライアントからの以来の書類を何とか完成させた俺は荷物をまとめ帰路につく。


「はぁ…もうこんな時間か…なんか泣きたくなってきた」


そう言い俺はトボトボと歩き苦い思い出のある電車に乗った。


俺の家は会社から1時間程離れた場所にある4階建てのアパートに住んでいる。

家賃は少し高いがその分セキュリティは万全なので安心して眠れる。


「まぁ…家に居るより仕事場にいる方が長いんだけどな…ははは…」


時刻は夜10時を過ぎている。

今からご飯を作る気も食べる気も無いのでお風呂に入って寝ようとしていた時インターホンがなった。


「誰だよこんな時間に…」


そう呟きながら俺は玄関を開けた。


「夜分遅くにすいません。今日隣に引っ越してきました水瀬花音です。これつまらない物ですが…」


そう言い彼女は頭を上げ俺の方を見て固まった。

ちなみに俺も固まっている…。

フリーズする事10秒、俺はまだ理解が追いつかないが…


「えっと、お久しぶりです。水瀬さん」


「えっと…奇遇ですね和泉さん」


と、お互いに挨拶を交わした。


「とりあえず…これどうぞ」


そう言い水瀬さんは手に持っていた箱を渡してきた。


「ご丁寧にありがとうございます。それにしても…まさかのお隣さんになるとは思いませんでしたよ」


「そうですね。あの後は大丈夫でしたか?」


「はい。お陰様で…でもまぁがっつり警察の方に指紋取られたり気をつけるようにと注意は受けましたが…はは」


そうなのだ。痴漢に関しては女性の意見の方が圧倒的に強く男は電車に乗る時常に降伏のポーズを取らなければならない。

非常に生きずらい世の中なのだ…。


「ふふっ…それは大変でしたね」


と、朗らかに笑う水瀬さんを見ていると空気の読めない俺の腹の虫が飯を寄越せと大音量で鳴りやがった。


グゥ〜〜〜…!


「あっ…」


俺は咄嗟に腹を抑えた。

そして絶対に聞いていたであろう水瀬さんを見ると…見事にキョトンとした顔をしていた。


「あの、えと…すみません。腹の虫が鳴りまして…」


と、俺はしどろもどろになりながらもそう言うと水瀬さんは…


「あっはは!凄い音でしたね〜。グゥ〜!って…ふふっ…も、無理…お腹痛い…」


まさかの大爆笑…。良いのだ可愛い子の笑顔が見れたんだ。俺はこの恥を受け入れよう…


そう思い熱くなっている顔を両手で抑え水瀬さんが笑い終わるまで待っていたのだった。


「ふぅ〜…すみません。ちょっとツボに入ってしまって…」


「いえ、いいんです。可愛いは正義。どうぞ笑ってやってください…」


俺がそう言うと水瀬さんはちょっと焦りながら…


「あの!ちょ、ちょっと待ってて下さいね!」


そう言い彼女はパタパタと走り自分の家に入って行った。


「待っててって…まぁ、いいけどさ」


そして待つこと5分…。

やっと水瀬さんが家から出てきた。そしてその手にはタッパーを持っていた。


「すみませんお待たせしまして…これ、今日の残り物で悪いですが…食べて下さい」


そう言い水瀬さんは両手で持ったタッパーを俺に渡してきた。


「え…でも、さすがに悪いですよ」


と、俺は断ろうとしたが彼女は…


「さっき笑ってしまいましたしそれに…お腹が空いてたら元気が出ないですからね。和泉さん、気づいてますか?顔色悪いですよ?」


そう言われてから気づく。


「そう言えば今日何も食べてなかったです…」


「やっぱり!いくらお仕事が大変でもちゃんと食べなきゃダメなんですよ?…だから、はい。食べて下さいね?」


「うっ…すみません。ありがとうございます」


俺は水瀬さんに軽くお叱りを受けてしまった。けど、そのお叱りはハゲ散らかしている部長とは違いとても優しいものだった。


「じゃあそろそろ私は帰りますね」


「はい。色々とありがとうございます…それにご飯まで頂いてしまって…」


「ふふっ…良いんですよ。隣人同士助け合いましょうね!あ、それとタッパーは時間がある時にでも返して頂ければ大丈夫ですから」


「分かりました。ちゃんと洗って返しますので…」


そして俺は水瀬さんと別れ貰ったタッパーを開けると…


「肉じゃがだ…」


そしてご飯を用意し1口食べた。


「…美味い」


何だろうか、凄く…懐かしい味がした。


「あれ…なんか涙が出てきた…」


社会に出て1年…こんなに毎日が辛いとは思ってもみなかった。

でも…まだ頑張れる。


そして俺は全て食べ終え一言。


「ありがとう…水瀬さん」


と、呟くのであった。

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