01.「その子は彼の生まれ変わり?」 ②生まれる筈の無い子

 布団に蹲りながら、体は恐怖で動かない、だがこのままではダメだそう考えて居た。


 そう、子供達の心配する声が聞こえる、蹲っている布団の中から、なんとか立ち上がろうとする。

「死んだ人が生き返る訳があるはずない、誰かのいたずらだ」

 そう呟きながらもそんなことをする人に心当たりはない。


「博自身が現れた訳では無いわ、あんなに愛していたのにそんなことをするはずが無い」

 そう自分を奮い立たせた。


 立ち上がるとリビングに戻って忌まわしい花束を掃除しようとした。


 だが花束は姉の分しかなかった。

 もちろんメッセージカードもなかった。


 そばに居たお兄ちゃんに聞く

「裕也君、ここにお花が落ちていなかった?」


 無邪気な子供はにこやかな顔をして如何にも知っているぞと言う顔で答えた。

「そんなもの無かったよ」


 とりあえず答えてくれたことに感謝しておく、そう頭を撫ぜた。

「そう、ありがとうね」


 そうだ、そんなことは無かった、実際に花束は1つしかないのだ、気のせいだ。

 必死にそう思い込もうとした。


 その時後ろで裕也が恐ろしい低い声で私を呼んだ。

「サエリン」


「えっ?、今何て言ったの裕也君……」


 裕也は視線が定まっていないような状況だった、再度恐ろしい声で話しかけてきた。


「サエリン、久しぶりだな」


 その言葉を聞いた時、頭が真っ白になった、そしてパニック症状の発作が起こっていた。


「今なんて言ったの!!」

 怒りとも、恐怖とも、もしかするとどちらの感情も含んでいたのかもしれない。

 私はそう言いながら裕也の肩を持ち裕也をゆすりながら言い続けた様だった。


 どのくらい時間が経った頃のだろうか、私は頬に痛みが走って気が付いた。


「大丈夫かしっかりするんだ冴子」


 直人さんが帰って来たのだ。


「また発作が起こったのか?、何が原因だ?」

 直人さんはそう言いながら大泣きしている裕也と絵里子を抱きかかえていた。


 私は大泣きしている子供達を見て自分が重大なことをしでかしたことに気が付いた。

 それは彼等の顔を見れば分かった、特に裕也は引きつった恐怖の表情で私の顔を見ていた。


「冴子、申し訳ないがこの子達は明日からお姉さんにお願いして預かってもらうぞ」

 直人さんはそう言った。


 私は自分のしたことを後悔したが取り返しは着かなかった。


「昔のダメな私がまた出てしまった、その上、子供を恐怖に陥れるなんて……」

 そう呟いたが、誰に対しても言い訳など出来ないだろう。


 今日起きた一連のことを説明しても誰も信じないだろう。

 だって自分でも本当に起こったことなのか自信がない。


 その夜夢を見た。

 あの崖に立っている夢だった。


「この崖から飛び降りれば楽になれる」

 そう言いながら飛び降りようとしている私が居た。


「裕也は私の生きがいだわ、その裕也の心を傷つけるようなことをするなんて酷い母親だわ」


 昔のことを思い出していた、虐待まがいのことは裕也が生まれた時にもしていたのだ。

「裕也が出来た時は博さんへの背徳の証であるかのように感じ顔を見るのも辛かったわ」


「でも、子供は顔を見ると天使だった。だから決して暴力を振るったり、裕也に暴言を履くことは無かった」


 そのときは私はパニック状態になっていたため、そばに居るときは裕也は私を怖がっていた。


 天使の裕也が生きがいだったが、自分に子供を持つ資格がないのではないかと思っていた。

「子供が出来るなんて思っても無かった」


 そう呟いた時夢の中で誰かが囁いた。

「おかしくない?」


「何が、おかしいの?それより貴方は誰?」


「あの時、貴方は子供を作る行為をしないんじゃなくて、精神的な問題で出来なかったのよ?子供が出来た?犯されたの?」


「そんなことはありません、愛し合っていたから子供が出来たのよ、自然なことだと姉が……、えっ?行為無し……ありえない……じゃない?……」


「えっ、でも絵里子の時は覚えがあるのに」


「絵里子の時は裕也が出来て行為も出来るようになったと思った……裕也が兄弟欲しがっていたし、だから絵里子の時は行為も出来たんじゃないの?」


「でも絵里子の時より前にそんなことをした覚えがない……そんなはずは無い。いつものように思い出せないんじゃない、覚えがない」


「だって行為なんて、博が見ているような気がしたから出来なかったのよ。なんで裕也は授かることが出来たの?、そんなはずないじゃない」


「どうして……」


 あとは同じことの繰り返しだった・ 

「どうして・・・どうして・・・」


 この後この質問が繰り返され、なにか恐ろしいことに気が付いたように目が覚めた。


 深夜に目覚めその後、眠れなかった。


「まさか……おかしい…子供が出来る筈はなかったのだ、裕也って私の子供?」


 悲しさに涙が出てきた。

「私は狂ってしまったのかしら、自分の子供をなぜ疑うの?」


 頭の中で今までの裕也との生活が走馬灯のように映し出された。

「ちゃんと妊娠中の記憶も生まれてから育てている記憶もあるわ、私の子供以外に考えられない」


 そう呟きながら、朝まで自分を納得させようとしていた。

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