第27話

 厳しいテスト期間から解放され、生徒たちは「うーー」と大きく伸びをした。


 中野茉理も例外でなく「うーん」と伸びをすると、後ろに振り返り新島春香に顔を向けた。


「春香、どーだった?」


「いつも通り…かな?」


「だったら10位以内確定か」


 中野茉理は「うりうり」と新島春香のおデコを突っつく。


「そんなコト言いながら、茉理だって、いつも50位以内に入るじゃない」


 実はこの二人、学力的にはもっとランクの高い高校を選ぶことが出来た。では何故か?


 新島春香がこの学園を選んだ理由は明確だ。新島恵太がいるからである。


 中野茉理がココを選んだ理由は、単純に家に近いからであった。


 余談だが、春日翔も表向きの理由は近いからだが、本当は「新島恵太がいるから」というのが大きい。コレはくされ縁を大事にしたというよりは、新島春香が追いかけてくると確信していたからである。


 新島春香が帰り支度を整えていると、何やら中野茉理がジッと見つめてくる。あまりに真っ直ぐに見てくるので、だんだんと恥ずかしくなってきた。


「あんまり見ないでよ…」


「今日も図書室?」


「え?」


 不意の質問に、新島春香は一瞬戸惑った。


「あ、どーだろ?テストも終わったし、恵太次第」


「頑張ってね、私、応援してるから」


「何を?」


「全部!」


 中野茉理は明るい表情でニッコリ笑った。


「あ…ありがと。それじゃ、また明日」


「うん、バイバイ」


 意味がよく分からなかったが、新島春香はとりあえず感謝の意を伝える。それから鞄を手に持つと、スタスタと出口に向かって歩き出した。


「ルー、行くよ」


「あ、ちょっと待ってください」


 ルーは急いで鞄に荷物を詰め込むと、集まってきていた生徒たちに頭を下げた。


「それでは、失礼します」


「うん、リースさん、またね」

「また明日!」


 皆んなに見送られながら、新島春香とルーは教室から出て行く。


 中野茉理はただひたすらと、新島春香の背中を見送っていた。


 それからスッと目を細めて妖しく笑う。


「お兄さんと幸せになれる楽園に、私が必ず連れて行ってあげるから…」


 ボソッと呟く中野茉理の声は、新島春香には届かなかった。


   ~~~


「恵太、今日は帰るんでしょ?」


 2年4組に顔を出すなり、新島春香は半ば決めつけで声をかけた。


 恵太は優しいから、嫌な予感がする…


「あ、悪い。真中さんに世話になったから…」

「帰るんだよね?」


 新島春香は兄の言葉を遮るように、眉間にシワを寄せて笑顔を作った。案の定だっ!


「新島くん、私は別に…」


 真中聡子が新島恵太の背中にすり寄るように近付いた。言葉でそー言いながら、何だその位置は!?新島春香は「うきー」となる。


「春香ちゃん、あんまり兄貴を困らすなよ」


 突然背後から声をかけられ、新島春香は勢いよく振り返った。


「春日さんは黙っててください!」


「おー怖っ、たかがお礼だろ?」


じゃありませんっ!」


「…行っちゃいましたよ?」


 そのときルーが呆れたような顔で溜め息をついた。


「はえっ?」


 新島春香は振り向いて辺りを見回すが、新島恵太どころか真中聡子の姿もない。


「春日さん、謀りましたね…」


 新島春香は背中を向けたまま、全身でプルプルと震えた。


「何の事だよ?」


 春日翔は子指で耳をほじりながら、澄まし顔でうそぶいた。


 思わず掴みかかりそーになるが、こんなヤツの相手などしている場合ではない。


「ルー、追いかけるよっ!」


 新島春香は一目散に駆け出した。


「あ、ハルカさん、ちょっと待ってください」


 ルーはペコリと春日翔にお辞儀をすると、新島春香を追いかけていった。

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