第8話

「どうしてついて来るんですか?」


 放課後、新島恵太の隣を歩きながら、ルーは後ろに振り返った。


「私の家もコッチなのよ!」


 新島春香は声を張り上げた。ルーは「あー、そーでしたそーでした」と両手を叩き合わせた。何だかちょっとわざとらしい。


「それに、二人きりなんて約束はしてない!」


「そーいえば、そーですね」


 新島春香の言い分に、ルーは素直に頷いた。


「それでは新島さんも一緒に帰りましょう」


「ルーは、家この辺なのか?」


 新島恵太が、隣を歩くルーに質問する。


 新島兄妹の自宅は学園から徒歩圏内である。20分ほど歩けば普通に着く。


「いえ、電車で3駅離れてます」


「だったら、駅は反対でしょーが!」


 新島春香が声を張り上げた。


「ま、いーじゃないですか。ケータお兄ちゃんがどんなトコに住んでるのか知りたいんです」


 ルーが可愛く微笑んだ。それを見て、新島春香はおデコを押さえてうな垂れる。


「勘弁してよ…何でいきなり、恵太にこんなに入れ込むのよ?」


 妹の呟きがよく聞き取れなかった新島恵太は、あまり気にせず直ぐにルーの方に向き直った。


「そー言われても、普通の家だぞ?」


「大丈夫ですよ。お二人の育ったお家を見てみたいだけですので」


 ルーは新島恵太の瞳を真っ直ぐ見つめると、目を細めて優しく笑った。


   ~~~


「あら、二人ともおかえり」


 ルーたちが新島宅に着いたとき、ちょうど買い物から帰ってきた、二人の母親である新島咲子にいじまさきこと玄関先で出会した。


 ブリムの広い白い帽子をかぶり、後ろで括った長い黒髪は背中の中ほどまで届いている。優しい目元をした笑顔の似合う女性だった。


「ただいま」


 新島兄妹は声を揃えて挨拶を返した。


「そちらは?」


 新島咲子が、ルーの姿に気付いて顔を向ける。


「私はルー=リースと申します。春香さんとは、とても親しくお付き合いさせて頂いております」


 ルーはにこやかに微笑むと、ペコリと丁寧にお辞儀をした。


「まあ、春香のお友達?こんな所では何ですから、よかったら上がって上がって」


 新島咲子はキィーと門を開けると、笑顔でルーを手招きする。


「ちょ、ちょっと、お母さん!」

「ありがとうございます!お言葉に甘えさせて頂きます」


 新島春香の声をかき消すように、ルーは声を張り上げた。それからそそくさと、新島咲子とともに家の中に入っていく。


 新島恵太は、妹がその場でダンダンと地団駄を踏む姿を見て、「ハハハ」と苦笑いをするしかなかった。


   ~~~


 リビングに通されたルーは、ソファーに腰掛けながら、家の中をキョロキョロ見回した。


「大きいですね」


 ボソリと小声で感想を漏らす。


「何言ってんのよ。イギリスの家の方が、もっと大きいんじゃないの?ウチなんて普通よ普通」


 たまたま後ろに立っていた新島春香が、ルーの独り言のような呟きに応えた。


「確かに本邸は大きいですけど、私は小さな離れが大好きで、想い出がたくさんありますので」


 ルーはフッと寂しそうな遠い目になった。


 そのとき新島春香は、ルーの頭をポンとはたいた。


「ッタ、何するんですか!」


 ルーがムッとしながら、新島春香を見上げてきた。


「急にしおらしくなんないでよっ、調子狂うじゃない!」


 新島春香は「フン」とソッポを向くと、「着替えてくる」と言い残しリビングから出ていった。

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