第6話
5時限目は体育だった。
1組と2組が合同になり、男子と女子が別れての授業になる。
ルーと新島春香は、女子更衣室で体操服に着替えていた。襟首と袖口のところに赤いラインが入った白い長袖服と赤い短パンの姿になる。
新島春香は首の後ろで髪の裾をまとめながら、チラッと隣のルーの姿を確認した。
ルーは高校1年生にしたら、やや小柄でスレンダーな体型をしている。新島春香は何も言わずに「フフン」と胸を反らした。ちゃんとくびれのある良いプロポーションだ。お胸のところにも、平均的にふくよかなモノが備わっていた。
ルーは苦笑いした。
お弁当のときに少しやり過ぎたのかもしれない。完全に対抗意識を持たれてしまった。
でも、それがとても私たちらしい。
ルーは嬉しそうに微笑んだ。
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授業の最後に、一人だけ測定していないルーの50メートル走のタイムを測ることになった。
「リース、準備はいいか?」
女性の体育教師がルーに確認する。
「先生、すみません」
ルーがピシッと右手を挙げた。
「ん、なんだ?」
「相手がいた方が走り易いのですが…」
「ほー、お前そういうタイプか」
体育教師が嬉しそうに笑った。
「それじゃ誰か…」
「新島さん、お願い出来ますか?」
体育教師の言葉を遮るように、ルーは新島春香に声をかけた。
「え、私?」
新島春香が驚いたような顔をする。ルーはテクテクと彼女の正面に歩み寄るとニッコリ微笑んだ。
「私が勝ったら、ケータお兄ちゃんと一緒に帰る権利をください」
ルーは新島春香に顔を近付けると、相手にだけ聞こえるように囁いた。
「はあ!?」
新島春香は仰け反りながら思わず声を張り上げた。それから慌てて口元を押さえると、再びルーに顔を近付けた。
「アンタ誰かに私が運動苦手だって聞いたわね?」
新島春香はニヤリと笑う。それから体育教師の方に身体を向けると、ピシッと右手を挙げた。
「先生、リースさんがその方がいいなら、私走っても大丈夫です」
「お、そうか、助かる」
体育教師は頷くと、ストップウォッチを持ってゴールの方に歩いていく。
ルーと新島春香はスタートラインに並んで立った。
「誰に何を聞いたか知らないけど、私、運動出来ないフリをしてるだけなんだよね」
新島春香はクラウチングスタートの姿勢に入り、真っ直ぐ前を見据えながらボソッと呟いた。
「当てが外れたこと後悔しても遅いから!」
そのときルーがフイッと校舎の方を向いてハッとした声を出した。
「あ、ケータお兄ちゃん」
「え、どこ?」
釣られて新島春香も兄の姿を探した。
その瞬間「パーン」とスタートの合図が響き渡る。
ルーは素晴らしい反応で綺麗なスタートを切った。
たったの50メートル走である。反応の遅れた新島春香に勝ち目など無かった。
「8秒6、凄いじゃないかリース!」
体育教師が歓喜の声を上げる。
「陸上部の増田に次ぐタイムだぞ!」
「陸上部に入らない?リースさん!」
「いやいや、是非ウチの部に!」
陸上部の増田を先頭に、体育会系の部活の女子たちがルーの周りに群がって引っ張りダコになる。
「すみません、皆さん。放課後は家の用事がありまして、部活には参加出来ないのです」
ルーは誘ってくれた全員一人一人に頭を下げた。
「そ、そうなの?残念ね」
人集りの熱がシューンと冷えていった。
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50メートル走のゴール付近で、新島春香は自分の両膝に両手をついて息を切らして俯いていた。
「やって…くれるじゃない」
ひとりでボソッと悪態をつく。
ちなみに新島春香の成績は9秒2、出遅れたことを考慮すれば、なかなかの好タイムであった。
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