第2話

 ここは銀杏いちょう学園高等学校。


 先日、工事用のクレーン車が倒れてくるという大事故が起こり、ちょっとした騒ぎのあった学校だ。


 使用していない教室が被害に合ったため、教師や生徒に死傷者が出なかったことが幸いであった。


 そんな騒ぎもようやく収まった頃、1年2組の教室で時期外れの珍事が起きた。


「今日は転校生を紹介するよ」


 黒髪のショートヘアに低身長のぽっちゃり体型、ふっくら丸顔に黒縁眼鏡をかけた女性教師、担任の浜野先生が朝のホームルームでそう告げた。


「入っておいで」


 その声に合わせて一人の少女が中に入ってくると、浜野先生の横に並んで立った。


「ルー=リースさんだ」


「ルー=リースです。イギリスから来ました。皆さん宜しくお願いします」


 学校指定のオークルのブレザー制服を着た少女は、大きな青い瞳でクラス全員をゆっくりと見回す。そのあと綺麗な銀髪のツインテールをピョコンと可愛く揺らしながら深々とお辞儀をした。


「うおぉーーお!」

「可愛いーー!」


 男子も女子も教室中が色めき立った。


「席は…」


 浜野先生は教室をクルリと見回した。すると教卓から真正面の、一番後ろの席が空いていることに気が付いた。


「お、新島にいじまの隣が空いてるな」


 言いながら浜野先生はルーの方に顔を向けた。


「それではリースさん、あそこの席へお願い」


「はい」


 ルーはにこやかに微笑むと席へ向かって歩き出す。道中で掛けられる声に笑顔で応えながら、一番後ろまでやってきた。


「ルー=リースです。よろしくお願いします、新島さん」


新島春香にいじまはるかよ。よろしくね、リースさん」


 少女は肩まで伸ばした綺麗な黒髪をサラリと流し、整った顔立ちで気さくに笑って挨拶を返す。


 ルーは嬉しそうに微笑むと、自分の席に着席した。


   ~~~


「リースさんて、日本語上手だね」


「向こうに日本人の友達がいてましたので、その人に習ったのです」


 休み時間のたびにルーの周りには人集りが出来ていた。しかもルーは人当たりよく受け応えをするので人気もうなぎ登りだ。


 そうして時刻は昼休みになった。


 ルーが隣に座っている少女に注目していると、彼女は自分の鞄からお弁当を二つ取り出し、パッと立ち上がった。


 それに合わせてルーもサッと立ち上がる。


「新島さん、お昼はどこかに行くんですか?」


「え?あー、うん」


 新島春香が少し困った様子で頷いた。


「新島さんはいつも、お昼はお兄さんと食べてるみたいよ」


 ルーの取り巻きの一人が、新島春香に代わって質問に答える。


「お兄さんと…いいですね」


 ルーはニッコリ微笑んだ。その可愛い笑顔に、新島春香は少し顔を赤らめる。


「そ、そーかな?リースさんはお弁当?」


「それが…今日は用意がないのです」


 ルーはウルウルした瞳を新島春香に向けた。何か強い熱意のようなモノが伝わってくる。


「え…えーと、良かったら一緒に食べる?」


 そのとき新島春香は何かに屈してしまった。


「ええ、是非!!」


 ルーがとびきりの笑顔を見せる。


「え!?リースさん、そんな…」


 ルーの周りの生徒たちが騒ついた。


「皆さん、すみません。そういうコトなので、今日は新島さんとご一緒します」


 ルーはペコリと頭を下げた。

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