私はおばあちゃん

九ノ瀬みをる

再開

「のぉサヤ、このチュイッターってぇのはどうやって使うんかのぉ」




その若々しい容姿からは想像できない言葉遣いに、彼女は困惑している。


18歳とは思えない、重厚感のある――それでいて、優しい声色とその容姿のギャップに、ほほえましい気持ちを隠しきれず、プッと吹き出してしまう。




「やめてよおばあちゃん、その見た目でその言葉遣いは面白すぎるよ」




80代ほどに見えるその女性は、その容姿に見合わぬ若々しい口調で少女に話している。笑った顔に刻まれた深いシワは、長年生きてきた証だ。




二人の笑い声が、小さな一軒家に響いていた――












カーテンの隙間から、4月の朗らかな日差しが流れ込んでくる。


少し小さめの一軒家で、家族三人が真剣な顔で話し合いをしていた。




「……というわけで、広島の実家の方に行かなきゃいけないんだ」




西浦サヤは父の言葉に耳を疑った。なんとなく察しはついていたが、まさか東京から遥か遠く……中国地方の広島県まで転居なんて想像すらしていなかったからだ。




「冗談じゃないよ。じゃあ学校の友達と別れなきゃいけないの? そんな勝手な理由で?」




勘弁してくれよと両親の顔に出ているようだった。しかし、ここで反論しないわけにはいかない。


サヤはさらに畳み掛ける。




「私もう高校2年生だよ? これから大学進学目指して頑張ろうってときに転勤なんて、意味分かんないんだけど」




「サヤ、確かにすべてお父さんのせいだけど、しょうがないことなの。一緒に行きましょ」




「あれ? 悪口が聞こえたな?」




……相変わらず仲がいいことだ。しかし、大都会東京での輝かしい暮らしを、こんなことで邪魔されるわけにはいかない。トドメの一言を両親に投げつける。




「私、この家で一人暮らしする!」




……クリティカルヒットしたようだ。サヤのことが大好きな両親は、言葉を失っていた。












「一人だとひっろいなぁこの家は」




サヤの独り言は、誰もいない一軒家に虚しく広がった。


両親が泣く泣く出ていった日から3日がたったが、悲しいかな、もう孤独感に苛まれてしまった。


そんな中、明日まで迫った始業式の準備をしていると、静寂をかき消すように家のチャイムが鳴り響いた。


いそいそとインターフォンに向かう。




「はーい。どちら様ですか?」




「サヤ、おばあちゃんだよぉ」




小さな頃によく聞いていた落ち着いた声に、驚きつつも小走りで玄関へ向かう。


鍵を開けて扉を開くと、見覚えのある可愛らしい笑顔が瞳に飛び込んできた。




「おばあちゃん! どうしたの!?」




「あんたのお母さんに頼まれたけぇ、新幹線とタクシーでここまで来たんよぉ」




無茶苦茶だ。老いた祖母を広島から東京まで一人行かせるなんて、非常識にもほどがあるとサヤは思ったが、あの両親のことだ。私のことになるとあまり周りが見えなくなるから仕方がないと諦めた。


それに、おばあちゃん自身も母の提案に乗り気だったのかもしれない。




「とりあえず入って。長旅お疲れ様」




「ありがとねぇ……うん。大きくなったねぇサヤ」




全く変わらない祖母を見たサヤは、孤独感から開放されたことも相まって笑顔がこぼれた。

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私はおばあちゃん 九ノ瀬みをる @temmie

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