第8章 新たなターゲット 2
「おい、ガク。儲かる話を見つけたぜ」
ニシヨドはそういって、海を見つめながら休憩していたスズラカミに話しかけた。
「リスクは?」
「でかいな、何せ武器の密輸だ」
「現物で銃武装となると見つかる可能性も上がるか…。待てよ、仕入れ先はどこだ?」
「中国さ。奴らと来たら質の良い違法武器を作りやがる。どうだ、やるか?」
「ふっ…乗ったな」
「そうこなくちゃな」
アオタはマイクロチップ内に表示されている保護プログラムが付いた文章をチームメンバーに共有した。特殊Ⅲと表示されている電子看板の扉の中は軍警察特殊部隊第Ⅲ部隊の事務室だった。
「Zさん、提供先の中国情報局から答えが返ってきましたぜ」
Zの席は事務室の奥にある一番大きな机に座っていた。アオタは始めて会った時からゼットを生真面目な男でつまらないと思っていた。だが、それは優秀の裏返しという事に気づいた。Zは軍警察での検挙率No.1の男だった。事件を常に多角的に捉え、真相を突き止める。実力は折り紙付きだった。
「ようやく動けるな。場所は第5地区の港か。あの辺りは比較的治安が良い地域のはずだ。なるほど…だからこそ、逆に隠蔽さえ出来れば目を付けられなくなるということか」
「いずれこの件が片付いたら、取り締まりを強化をした方が良さそうですね」
「リナ、そうだな。我々軍警察の影響力を強めるには持ってこいだ」
この長髪の美女、リナはアオタからすると全10人の屈強な男ばかりな第Ⅲの紅一点だった。まぁ、本人はガードが硬くて近寄れないが。
「情報によると次の金曜の昼は中国から多数の品が輸入されて来るようです。輸入されたタイミングで一斉に検挙に出るのはどうですか」
アオタから一番奥の席にいるメガネをかけ、そのメガネが隠れるほどの黒い長髪をしている男、ホラが言った。こいつは第Ⅲで一番の情報通だ。元マイクロチップ犯罪の専門家で軍警察のセトウチさんにスカウトされてここに来ていた。
「そのタイミングが妥当だな。人も増やす。別部隊にも協力を要請しよう」
Zはそういうと立ち上がった。
雲一つ無い、晴れた日。スズラカミは今回密輸される武器の情報をマイクロチップを使って見ていた。自立型致死兵器シーザス。それが今回の密輸品だった。
「まさか戦争用の兵器が日本に持ち込まれてきたとはな」
スズラカミはこの仕事を共にする事になったニシヨドに声をかけた。ニシヨドは同じくマイクロチップでシーザスのデータをいじっていた。
「こいつは裏に何かある。俺の長年の感がそう言っている」
「ほう、政府が隠している何かか?」
「さあな、そういうのはお前の方が詳しいのじゃないのか?」
「ダークエクスの疑似体験の中にもシーザスは乗っていた。だが、人殺し兵器に過ぎなかったぞ」
「ガクはダークエクスの情報が全て正しいと思っているのか? 犯罪組織が本当のことを言うと思うか?」
「俺は正しい情報を取捨選択出来る人間だ。犯罪組織の戯言と政府が隠している真実は見分けられる。その俺が見るところ、シーザスはダークエクスをですら見れない深い何かがある気がする」
「ダークエクスより深い何かだと? 考え過ぎだろ」
「どうかな」
スズラカミはそう言って、腰のポケットに入っていた、銃を取り出した。これは密輸を始めてからスズラカミが独自に輸入してきた、アメリカ産の拳銃だった。
「何かあった時の護身用に使うつもりだ」
「俺は逃げるぜ、密輸までは給料出るからやるが、戦いは別だ。軍警察の仕事だろ」
「お互い死ぬのだけは避ける。それ以外は自由にやるか」
「間違いねぇ。自由が一番だ」
日差しが強い。海は静かすぎるほど波がたっていなかった。トラックの窓から見える風景はいつもより活気があった。その理由は二人ともすぐに分かった。
「今日はやけに人が多いな。」
「みんなシーザス狙いなのか?」
「多分な。」
ニシヨドはスズラカミにデータを共有した。
「今回の輸入品の確認だ。表向きは中国から送られてくる、高級電気マッサージ機だ。だが、コンテナ中は自律型致死兵器シーザスだ。中国の富豪から日本の政府宛だと言われている。」
「で、このリー・スーヨンという男が中国側の取引相手か。経歴も不明。」
「密輸じゃよくあることだろ。どうせ犯罪者だ。」
「とりあえず、リーのから来た作戦通りことは進めるか。」
スズラカミは船から運ばれて来た複数ある高級マッサージ機と書かれたコンテナが次々にクレーンに釣られて移動して行くのを見た。スズラカミとニシヨドの役割は最初に置かれたコンテナを奥のコンテナヤードの方に持っていく役割だ。その時、偽の取引をして中身を紛らす。
スズラカミはトラックのエンジンをかけた。助手席にはニシヨドが乗っている。脳内のマイクロチップに高級電気マッサージ機のコンテナの場所が映し出される。狙いのコンテナの場所まで着いた。クレーンでトラックの上に運び上げ、そのまま、持っていく。
途中に数人の人が道を封鎖していた。コンテナの中身の確認の為の検問だろう。全員が黄色い作業員を着ている。スズラカミとニシヨドが乗ったトラックを見ると、手で止まる様に合図をしてきた。
「許可証は脳に入ってる。今そっちに映す。」
スズラカミはトラックの窓を開けて、そういった。相手のマイクロチップに接続する。
リンク先の相手のサーバーに入った。オレンが作った偽の許可証がバレたことは一度もない。ここは安心しきっていた。だから、異常音が鳴った時は反応が遅れた。
『不明な接続があります。ハッキングの可能性あり。不明な接続があります。ハッキングの可能性あり。不明な接続があります。ハッキングの可能性あり。』
スズラカミのマイクロチップに赤い警告文が表示された。強力なマイクロチップジャミングだ。マイクロチップとIOTとの繋がりに何者かが介入してきている。
「そのコンテナは我々の物だ。渡してもらおうか。」
黄色い服をきたグループの一人がスズラカミが乗る車の近くにやって来た。
シーザスを狙う別の組織の一員だった。
「頭がくらくらする。ニシヨド頼んだ。」
だが、隣のニシヨドも同じ様にマイクロチップがハッキングされていた。
「くそが」
スズラカミは、護身用の銃を手に取った。窓の外に向けて引き金を引いた。
ダァン。
音が空に響いた。男の頭に穴が空いた。スズラカミは倒れる男の姿が、エクスの映像を観る時によく使用するスローモーションの様にゆっくりと見えた。
音に反応して周囲の人がこちらを見てきた。スズラカミはアクセルを踏んだ。だが、それよりも速く、黄色い服のグループが動いた。
黄色いグループは一瞬で加速した。スズラカミが乗っていないトラックのIOTと繋げたのだろう。
「させるかよ。」
隣にいたニシヨドもマイクロチップとIOTを繋げた。トラックのIOTに妨害電波を送る。
タイミングを合わせてスズラカミはエンジンを起動させた。
加速しながら近づいてくる黄色いグループはお互い向き合い始めた。そしてぶつかり合う。ニシヨドのマイクロチップハックによって接続対象がトラックのIOTから黄色いグループそれぞれのマイクロチップへと変化したのだ。
大の大人がぶつかり合うという哀れな現象をバックミラーで見ながら、スズラカミは先を急いだ。
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