第153話 道の先
ところで、こういう悪いことをしている組織をどうにかするのは、この街を治めている領主などの仕事ではないだろうか?
それで言うとアキヒサは、ただの通りかかった旅人でしかない。
――僕みたいなのが、こんな大事に関わっていいものなのか?
アキヒサはそんな不安に襲われる。
だが思えば日本でゲームをやっていても、ラスト直前に来たら「これでいいのか? まだやってないことがあるんじゃないか?」と不安に駆られてしまい、ゲームの始まりからもう一度やり直すところがあった。
いつの間にか中ボス戦をこなしてしまい、これからラスボス戦に突入するとなってしまった今、その悪い癖が出てきたらしい。
そんな腰の引けているアキヒサの一方で。
生体兵器組は「ガンガンやろうぜ!」な方らしい。
「ふむ、気を引き締めていくか。
油断するな、鬼神よ」
「ムゥ!」
リュウの偉そうな言い方が気に入らなかったらしいレイが、その足をゲシゲシと蹴っている。
あの蹴りを普通の人間が食らうと、骨折どころか足が吹き飛ぶかもしれない。
そんな二人の様子をアキヒサの懐から見ているシロは、「またやっているよ」という貌で大あくびをしている。
どうやらシロはこのなんちゃってダンジョンの雰囲気に慣れてきたようで、徐々に余裕が出てきているようだけれども、それでもアキヒサの懐から出て歩かないのだが。
幼獣なりに、巻き込まれ事故の危険性を察知しているのかもしれない。
このようにして、それぞれが思いを一つにしているとは到底言えない三人組で、いよいよこのダンジョンめいた地下道のラスボスっぽいなにかに挑むことになる。
中ボスのいたホールを通過するとまた一本道で、そこをまっすぐに進む。
その途中にもガーディアンがいたのだが、それはこれまでのガーディアンと違い、中ボスの色違いのような個体であった。
――あれか? ラスボスの露払い的なものだったのかな?
RPGでも、ラスボスに挑む直前には怒涛の歴代中ボスラッシュがあったりするものだ。
しかしレイに一撃で撃破されてしまい、すぐさま鞄行きになるわけだが。
そんな風に障害物をものともせずに歩くと、教会にあったものと似た扉に行き当たった。
この扉の奥に、例の真っ赤な反応がある。
「いよいよラスボスか」と急に緊張してくるアキヒサだが、その緊張感はアキヒサだけが抱いていたようだ。
「開けるぞ」
リュウがそう言うよりも早く、扉の真ん中の模様に手で触れた。
ゴゴゴ……!
アキヒサの心の準備が整うよりも早く、扉が重い音を立てて開く。
その扉の向こうには、人が数人いた。
どうやら向こう側からは扉があることを知られていなかったらしく、突然壁に穴が開いたように見えたようだ。
「なんだ!?」
「なんで壁が動いたんだ!?」
「誰だお前たちは!?」
それぞれに騒いでいる彼らはみんな、裾の長いズルズルとした格好をしていた。
あれは冒険者ギルドに出入りする司祭と、服装が似ている。
つまり、ここはグランデ神聖教会の施設の中で、彼らは教会関係者であるということになる。
アマンザのいる教会とグランデ神聖教会の地下が繋がっていたとは、探索で予想していたとはいえやはり驚きだ。
しかしそんなアキヒサ以上に驚いている者が、隣にいた。
「なんたることだ」
そう呟くリュウが呆然と教会関係者を、というより、彼らが囲んでいるモノを見つめる。
それはガラスのように透明で、大きな筒だ。
その筒の中には水のようなものが満たされていて、機械のようでいて生物の一部のような、奇妙ななにかが浮かんでいる。
その謎の物体から、真っ赤な反応が出ているのだ。
「あれは、No.1の基幹部ではないか!
どうしてこんなものが残っている!?」
今、リュウがすごいことを言った気がする。
「え、No.1の本体なのか!? なんで!?」
廃棄処分になったという情報だったのに、結構しっかりと残っているではないか。
しかも「基幹部」ということは、No.1を構成するメインである。
つまり全然廃棄になっていないということで、鑑定の情報元に情報の精査を要求したい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます