第147話 鍵があった

 それにしても、こんなものがうろついているとしたら、この扉をこのままにしておくのは危ないだろう。


「ひとまず、この扉を閉めてしまった方がいいな」


「そうですわねぇ、子どもたちがうっかり入りかねないし」


アキヒサの言葉に、アマンザがワクワク顔のミチェの首根っこを掴みながら言った。

 この扉は閉めてしまえば、今のところレイとリュウにしか開けられなくなるから安心だろう。

 けどだとしたら、そもそも昔の人はこの扉をどうやって開けていたのか?


「やっぱり、鍵がどこかにあるのか?

 リュウさん、この種類の扉ってどういうもの?」


アキヒサがひそっと小声で尋ねると、リュウが「ふむ」と思い出すように宙を見つめる。


「この型式の扉は、我々の生体情報を有した鍵と揃いになっていたはずだ。

 大きくなくとも、指の先一本でもあれば開くだろう」


リュウがそう解説してくれたが、アキヒサは誰かの指なんていう鍵を持つのは嫌である。


 ――もっといい例えはなかったのか?


 とにかく、別に生体兵器本体まるごとでなくても、扉は開くことはわかった。


「あの、アマンザさん、昔からこの教会にあったものとか、なにか知りませんか?

 実はこの人はこういう不思議物体の専門家でして、どうもこの扉って普通の鍵ではなさそうなんです」


アキヒサが改めて尋ねると、アマンザは「まあ、そうなの?」と目を見開いてから、悩ましそうに首を捻る。


「昔からあるものねぇ、ここのはなんでも古いけれど……。

 あ、父に貰った首飾りは、確か先祖代々受け継いできたとか言われたっけね。

 ちょっと派手で普段使いできないものだったから、棚に仕舞ってあるけど、ちょっと待っていてくれる?」


アマンザはそう言うと、ミチェを小脇に抱え、男の子を服の裾にしがみつかせたまま、隣の建物へと入っていく。

 それからしばらく、レイとシロが壊れたガーディアンをツンツンしているのを見ながら待っていると。


「お待たせ」


戻ってきたアマンザの手には、キラキラと虹色に光る石がついた首飾りが握られていた。

 どうやらアレが先祖代々受け継がれている首飾りのようだ。


「へぇ、綺麗な宝石ですね!

 けど確かに、普段の格好では着けにくいですね」


「でしょう? だからずっと仕舞いっぱなしだったの。

 どうぞ見てくださいな」


アキヒサが感心したようにしげしげと見つめるのに、アマンザは微笑んで差し出してきたので、ありがたく手に取ると。


 クイクイッ!


「うん?」


下から服を引っ張られたのでなにかと思えば、レイがものすごく渋面をして引っ張っていた。

 眉間の皺がこれまでで一番かもしれない。


「どうしたんだ? レイ」


アキヒサがしゃがんでレイと目を合わせようとしたその手から、首飾りが持っていかれる。


「あ」


「……まさか」


首飾りを取ったのはリュウで、こちらも渋い顔をしている。

 レイはそのリュウに片足を蹴るように動かし、まるで「あっちに行け」と言いたげな仕草である。

 リュウのことを普段から嫌っているレイだが、どうやらそういうことではなさそうで、むしろ視線はリュウの手にある首飾りに向いていた。


「そのナリでも、コレへの拒絶反応は持っているか」


リュウは一人納得したようにそう零すと、アキヒサに首飾りをかざして見せる。

 首飾りの先についている石が揺れながらキラキラと輝いているが、この綺麗な首飾りが一体なんだというのだろう? というか、鍵とは生体兵器の一部ならば、この首飾りが生体兵器のなにかなのか?

 アキヒサの表情からそんな疑問を読み取ったのか、リュウが首飾りの石を指で弾いて告げた。


「コレは鱗だ」


「鱗? って、なんの?」


答を貰ってもなお頭の中が疑問符でいっぱいのアキヒサだが、リュウの方は「ふぅ~」と深く息を吐く。


「まさか、これがここにあろうとは……これはNo.01の鱗だ」

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