第139話 宗教アレコレ
それからグランデ神聖教会はさらに勢力を拡大して、近隣諸国でも他の教会を弾圧して飲み込んでいき、今ではこの大陸での公式宗教みたいな扱いであるのだそうだ。
「おかげでこの辺りに昔からあった土着の信仰は全て塗り替えられてしまった。
あのような金儲け集団が、神を語るなんて悲しいことです」
アマンザはそう述べるのに、アキヒサは「う~ん」と一人唸る。
――つまり、異世界版宗教戦争ってことかぁ。
アキヒサとしては、絶対に関わり合いになりたくないトラブル筆頭である。
宗教にかかわるとろくなことにならないのは、実体験で良く知っていた。
貧乏孤児とは、押しかけ宗教人のターゲットになりやすいのである。
「私は少しでも曾祖父の教えを残そうと、あの金ピカに挑んだのだけれど、まあこの通り負けたわ。
連中の金儲けへの執念にね」
肩をすくめて吐き捨てるように言ったアマンザだが、信仰ではなく金に負けたというのが、なんだか嫌な話だ。
――面倒くさいなぁ、あの金ピカ、もう無視するのはダメなのか?
リュウに引きずられるように金ピカについて調べることになったアキヒサが、重たい気分になっていると、アマンザが気になることを口にした。
「そうそう、あの金ピカがスキルをお金で売るような商売を始めたのも、ちょうど曾祖父の教会が負けた後からだったそうよ」
「……ってことは、昔は違ったってことですか?」
アマンザの言葉にアキヒサは驚く。
スキル販売はてっきりずっと昔からのやり方なのかと思っていたら、どうやら違ったらしい。
しかもアマンザの曾祖父の件の後ということは、それほど古い話ではないということになる。
アキヒサがこの話題に食いついたのに、アマンザがニコリと微笑む。
「ブリュネちゃんから、あなたのスキルについての考えを聞きましたよ。今のこの国だと、奇異に見られたでしょうね」
アマンザに言われたことに、アキヒサはギョッとする。
――ブリュネさん、話しちゃったの!?
ブリュネ自身から口止めされていたことであるのにと、アキヒサが冷や汗をかいていると、アマンザが安心させるように微笑みかけてきた。
「大丈夫よ、他には言わないから。
ブリュネちゃんも私だから話したのだし。
あなたは他の大陸から旅をしてきたのかしら?
ならばあの金ピカのやり方に驚いたことでしょう」
もはやグランデ神聖教会を金ピカとしか言わなくなったアマンザが、スキルについて教えてくれた。
「今ではもうお金でスキルを買うのが普通になってしまっているけれど、昔は教会で神に祈り努力すれば、いつか身につくだろうとされていたのがスキルだったのよ?
けれどあの金ピカがお金を払えば簡単にスキルが得られると宣伝し始めちゃったから、みんな努力を止めてしまったの」
そもそも、新興宗教でしかない組織が大陸での一大勢力になっていったのも、スキル商売で国の上層部に食い込めたからだそうだ。
「私は父から口伝で伝えられたけれども、決して人に言ってはならないと口止めされたわ、粛清されてしまうからって。
他のかつての教会関係者も、同じではないかしら?
今ではこの国で昔のスキル取得のやり方を覚えている人はいないでしょうし、あなたの意見は危険視されるでしょう。
だからあまり言いふらしていい話ではないわ」
「……ですね、気を付けます」
アマンザの忠告に、アキヒサは頷いておく。
ブリュネが王族だという冒険者ギルドのトップに上げた話が、どのようになるかでこの辺りの事情も変わってくるのだろう。
しかし今のところは内緒の話なので、アマンザの言う通り言いふらさない方がいい。
――まさか、そんな後ろ暗い事情があるとか思わなかったし!
自ら泥沼にはまったような気がして、アキヒサはげんなりとした気分になる。
もっと平和にのんびり暮らしたいので、できればそうした泥沼は御免こうむりたいものだ。
アマンザは、そんなアキヒサの様子を察したらしい。
「あら、そういえばお茶もお出しせずに長話をしてしまったわ。
どうぞこちらへいらして?」
そう言ってったアマンザが、礼拝堂の横にある小部屋へ案内しようとした時。
「おぬしたちは、好きでボロに住んでいるわけではないのだな?」
急にリュウが口を挟んできた。
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