第137話 関係者と出会えた
「だぁれ?」
女の子がきょとんとした顔で首を傾げた時、その足をガシッと掴む手が家屋の隙間から伸びてきた。
「一人でどこに行くの!?」
隙間からそんな怒鳴り声が響くと同時に、女の子がズリリッ! っと引っ張られていた。
どうやら女の子は、こっそり脱走しようとして失敗したようだ。
「ミチェ、まったくアンタって子は、またこんなところから外に出て!」
中からそんな風に叱られつつも、女の子は悲鳴を上げてジタバタもがくが手は足から外れない。
ミチェというのはこの子の名前のようだ。
「やーん、放してぇ!」
ミチェの懇願むなしく、ズリズリと隙間の中に胴体の半分が入ってしまい、脱走はもう無理だろう。
しかしアキヒサとしては、関係者と出会えてちょうどいいと言える。
「あの~、すみません、この教会の人ですか?」
アキヒサはミチェが収納されている隙間越しに、中を覗いて呼びかけた。
「あら、誰かいたんですね、お騒がせしました!」
すると中でミチェを引っ張っていた子が、驚いてミチェの残りの身体を一気にズリッ! とやって、「ふぎゃあ!」というミチェの悲鳴が聞こえてくる。
「もしかして教会に御用ですか?」
そう言って隙間から顔を覗かせたのは、十歳を過ぎたくらいの年ごろの女の子だった。
「そうなんです、ちょっとお話を聞けたらと思って伺いました」
アキヒサの訪問目的を告げると、彼女は「珍しいことがあるものね」と漏らす。
どうやらこの教会を訪ねる人はあまりいないようだ。
「ちょっと待ってくださいね、今司祭様を呼んできますから」
彼女にそう言われて、待つことしばし。
「お待たせしてしまって、お客様はどちらかしらぁ?」
そんな声が響いてきて、教会の方から灰色のローブのような服装の中年女性が出てきた。
その隣には、先程の女の子がいる。
「司祭様、あちらの方です」
「ありがとうミリー、戻っていいわよ」
女性は案内した女の子の頭をひと撫でして中へ戻したところで、その人は話しかけてきた。
「わたくしはこの教会と孤児院を管理しているアマンザと申します。
もしかしてあなた方が、ブリュネちゃんの言っていた方かしらぁ?」
――ブリュネちゃん!?
女性、アマンザの口から出たなかなかのパワーワードに、アキヒサは口の端がヒクヒクする。
ブリュネをそんな風に呼ぶとは、この人は結構なツワモノではないだろうか?
それに事前に話を通してくれていたとは、ブリュネも気の回る人である。
「はい、ブリュネさんから紹介してもらった者です。アキヒサと申します」
アキヒサが挨拶をすると、「あらやっぱり」とアマンザがほほ笑んだ。
「なんでも、あの金ピカについて聞きたいんですってぇ?
いいわよぉ、入ってらっしゃい」
アマンザがそう言って手招きしたので、アキヒサたちはゾロゾロと教会に入る。
それにしても、元はあちらの教会にいた人であるのに「金ピカ」呼ばわりとは、やはり中の人も一応悪趣味だとはわかっているようだ。
案外恥ずかしがりながら勤めている人もいるかもしれない。
教会の中は綺麗に掃き清められていて、正面にはステンドグラスが飾られていて、その前には神像が飾ってある。
――この世界にも、神様っているのか?
アキヒサは神像を見て不思議に思う。
なにせアキヒサをこの世界に呼び込んだのはコンピューターの誤作動なので、神様という存在がピンと来ないのだ。
もしかすると、歴史上の偉人を神に祭り上げているのかもしれない。
とりあえずアキヒサはまず礼儀かと思い、正面に飾ってある神像の前に立ってお祈りをした。
しかし祈ったのはアキヒサだけで、レイはなぜか床をズリズリと這い始めている。
おそらく先程のミチェのマネをしているのだろう。
レイからみたら面白そうに見えたのかもしれない。
そしてリュウは神像を見て「ムム」としかめっ面をしている。
――もしや、この神像の神様と知り合いだとかいうのだったらどうしよう?
なにせ年齢を忘れているくらいに長生きなドラゴンなので、あり得る話だ。
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