第135話 ホッとする場所
ブリュネとの話を終えると、アキヒサたちは今夜の宿の予定である「とまり木停」へ向かう。
あの見慣れた二階建ての建物が見えてくると、アキヒサは何故か安心感に満たされてホッと息を吐く。
――なんか、帰ってきたって気がするなぁ。
アキヒサはこのニケロでの滞在歴が長いわけではないのに、何故かそんな気持ちになった。
「とまり木停」もそうだが、自然とこの街に愛着を抱いていたのかもしれない。
宿の玄関を飾る花壇に女将のリーゼが水をやっていたのだが、近付くアキヒサたちの姿に気付いた。
「まあ、おかえりなさいトツギさん!」
リーゼが大きく手を振って、アキヒサたちの帰りを喜んでくれた。
どうやらアイカ村での盗賊騒ぎについて聞いたらしく、無事を心配していたようだ。
「またお世話になります。
ご心配をおかけしましたが、この通り僕もレイもピンピンしていますので!」
アキヒサがそう言ってニコリと笑う足元で、レイがグイッとシロを持ち上げる。
「シロも無事だぞ」というアピールらしい。
残念ながら、シロがお腹をギュッとされて「グエッ」としている今この瞬間は無事ではなさそうだが。
「ふふっ、元気そうね。
それで、後ろの方もご一緒に宿泊かしら?」
レイとシロを見て表情を和ませたリーゼが、アキヒサたちの後ろで宿の外壁をペタペタと触っているリュウのことを尋ねてきた。
「ええ、あの人も一緒に宿泊をお願いします」
「じゃあ、部屋は同じかしら?」
「はい、それでいいです」
リーゼとのやりとりで、リュウと同部屋での宿泊が決まった。
リュウを一人で個室を取ることも金銭的には可能なのだが、なにせなにをしでかすかわからないので目を離すのが怖い。
リュウもそのあたりにはこだわらないようで、特に反対はなかった。
こうして宿に入って受付を済ませると、リーゼから二階の部屋に案内されたアキヒサは荷物を置き、窓を開けて深呼吸をする。
その傍らでは、レイが早速大事なユーリルの花をどこに置こうかと、場所を念入りに選定し始めた。
このユーリルの花は、ゴルドー山でのリュウとのバトル中でも壊れたり落ちたりしなかったので、ブリュネにもらったこのリュック型保存袋は想像以上に優秀だ。
「ふむ、なるほど。これが今風の街か」
リュウは窓から見える街並みを観察している。
アキヒサは改めて思うと、ここはいい街だ。自分はこの国どころか、この世界でも知っている土地は少ない。
けれどニケロは買い物で困らない程度に品物が揃っていて、ちょっと行くと田舎があるなんて、立地としては最高ではないだろうか?
人が多く集まる都会が決して住みよい場所ではないことは、日本で嫌というくらいにわかったことだ。
それになによりレイが懐いているブリュネがいる、これはとてもポイントが高い。
――ニケロで家を持つのもアリか?
アキヒサはうっすら思っていたりする。
アイカ村で思いがけずにタワマン最上階の部屋をゲットしてしまってから、拠点というものについて考えていたのだ。
ここ「とまり木停」の近くであれば、美味しい食事に困らないのでなお良い。
それに持ち家という自分の城を持つことは、アキヒサにとって憧れであり目標であった。
日本では親がおらず帰る家がない人生だったので、いつ追い出されるかとビクビクしなくていい居場所が欲しいというずっと抱いていた願いを、異世界で叶えるというのも変な話だが。
それにぶっちゃけ土地さえ手に入れば、そこへテント住宅を設置すれば自宅が完成なのだ。
アキヒサには大邸宅に住みたい願望があるわけでもないので、あのテント住宅で十分満足だったりする。
――今度、土地についてブリュネさんに相談してみようかな?
そんなまったりとした気分になったアキヒサだったが、今はそれよりも教会のことだ。
「とまり木停」で美味しい夕食を食べて、ぐっすり眠った翌日。
アキヒサたちは朝食を食べると、ブリュネに教えられた教会に行ってみることにした。
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