第41話 到着

それから、アキヒサたちは翌日ものんびりと進む。

 人目から隠れられる場所ではテント住宅に泊まり、試しに庭の花壇に薬草を植えてみたりして、時間を過ごした。

 そしていよいよ本日の夕刻にはニケロに街に着けるはずだという予定だったのだが、どうやらそれよりも早く到着できそうだ。

 というのも、荷車に乗ったおじいさんがたまたま通りかかって、乗せてくれたからだ。


「子連れで歩きたぁ大変だろう、ニケロの街へ行くならついでに乗っていくか?」


そう言ってくれた、人の情けがありがたい。

 おかげで早い時間にニケロの街へ到着できて、宿探しが楽になるというものだ。

 日本でだって、暗くなってから慌ててホテルを探しても、部屋が空いていなかったりするのだから。

 そんなことを考えながらも、アキヒサはおじいさんと世間話をしていた。


「そうかぁ、遠くから旅をねぇ。そりゃあ大変だ」


「ははっ、でもこうしていい出会いもありますから」


その横でレイが足をブラブラさせて荷車からの景色を眺め、その隣でシロが毛づくろいをしている。

 そしてしばらくすると。


「そろそろニケロの街が見えてくるぞ~」


おじいさんが前方を指差してそう告げたので、アキヒサらは揃ってそちらを見る。

 遠くに現れたのは、壁に囲まれた街だった。

 もちろん、リンク村よりも断然広い。


 ――うーん、街は壁で囲まれているパターンかぁ。


 昔の地球だと街を壁で覆う理由は主に戦争対策だったようだが、ここは狂暴な魔物がいる世界だから、それらから住人を守るためにも頑丈な壁は必須なのだろう。

 その壁に取り付けられた大きくて頑丈な扉の前に、数人の兵士のような格好の男たちが立っている。

 どうやらあそこから街へ入るようだ。

 おじいさんは、荷馬車を扉のあたりにつけてくれた。


「どうもありがとうございました!」


「……ありがとござました」


アキヒサがお礼を言うと、レイも真似をするものの微妙に言えていないのがなんとも和む。


「いいってことよ、困った時はお互い様だぁ」


おじいさんはそう言ってニカッと笑うと、手を振りながら荷車を走らせ去っていく。

 どうやらこの街のまだ向こうの村へ行くところらしい。

 こうして荷車のおじいさんと別れたアキヒサたちは、扉の前の兵士の一人に呼ばれた。


「おいお前たち、この街へ入るのか?」


「はいそうですけど」


アキヒサはその兵士の質問に頷く。


「身分証などは持っているか?」


続けてガイルに聞いた通り、身分証について聞かれた。


 ――やっぱりいるのか、身分証って。


「いえ、持っていないんです」


アキヒサがそう告げると、兵士は「そうか」と頷く。


「身分証がない者は、入るのに一人銀貨一枚な。

 ああ、ペットの分は要らないぞ?」


兵士がわざわざペットの事を言ってくれたのは、レイがシロをずずいと掲げて見せたからだろう。

 アキヒサは事前にレイに対して、街へ入るのに検査や通行料がいることを説明していた。

 そうしないと理不尽な要求をされていると勘違いして、うっかり敵判定しかねないからだ。

 そうした流れから、レイなりに「だったらシロの分は?」と考えたのだと思う。


「シロの分は要らないってさ、ちょっと得しちゃったな」


「とく」


アキヒサがそう笑いながら言うと、レイはコックリと頷いて、シロを地面に降ろす。

 そのシロは、レイに急に掲げられて若干プルプルしているものの、昨日の出会ったばかりの頃に比べると、すこぶる元気である。

 どうやらレイに慣れたのか、はたまたアキヒサたちから餌も貰えたし、怖いけれども敵ではないと考えたのかもしれない。


「こっちで一応照会するから、来てくれ」


兵士が手招きして呼んだので、アキヒサらは大人しくそちらに向かうと、門の横にある扉に通された。

 中は兵士の詰め所になっているようで、簡素なテーブルと椅子が置いてある。


「じゃあ、ちょっとじっとしていろよ」


兵士がそう言ってなにかを扱うと、アキヒサたちに一瞬、まばゆい光があてられた。


 ――なんだ? まるで写真撮影のフラッシュみたいだったけど?


 アキヒサのそんな考えをよそに、兵士は手に持っているものを覗き込み、「まあ、これでいいか」と呟く。

 兵士の持っているそれは、石板のようだが、材質が石ではない。

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