第一章 幼児と一緒
第1話 目覚めたら塔の中でした
「あれ、ここどこだ?」
アキヒサが目を覚ましての第一声が、これだった。
おかしい、昨日もいつものように終電で帰宅して、コンビニ弁当を温めて食べて、風呂もそこそこに寝たはずなのに。
何故か自分が今いるのは、固い床の上だ。
――もしかして誘拐された!?
一瞬そんな考えが頭を過ぎったが、そもそも孤児で財産持ちの身内なんていないアキヒサを誘拐して、誰が得するというのか?
まあ給料使う暇もなく働いたから、それなりに貯金はあるだろうけど。
それに視界に入るのはコンクリートっぽい見た目の壁と天井なのだが、丸い筒型になっていてさほど広くはない。
会社の会議室程度の空間だろうか。
そしてその空間の大半を占めて鎮座しているのが、どでかいコンピューターだ。
それに壁のあちらこちらから出ているチューブが連結されている様は、まるでタコのように見える。
どうもこの部屋は、このコンピューターのための部屋らしい。
他にはなにもないし、誰もいない。
結論、ここがどこだかさっぱりわからない。
なのでアキヒサはもっとよく周りを見ようと、寝たままだった身体を起こしたのだが。
『目が覚めたか』
誰かの声がして、アキヒサはぎょっとして飛び上がる。
人間とは凄く驚いた時は、本当に飛び上がるのか。初体験だ。
それはさておき。
声がしたものの、さっきも言ったがこの空間にはアキヒサ以外に誰もいない。
一体どこから声がしたのかと、キョロキョロとしていると。
『どこを見ている、ここだ』
また声がした。
それと同時にコンピューターの画面がチカチカと光る。
――って、もしかして。
「このコンピューターが喋ったのか?」
『その通りである』
独り言にコンピューターが答えたので、アキヒサはまたまた驚く。
しかし考え様によっては、今の状況を尋ねる相手ができたということで。
アキヒサはこの謎だらけの状況について、疑問をぶつけてみた。
「あの、ここはどこですか? 僕は一体どうしてここに?」
これに、コンピューターが即答する。
『ここは世界の中心の塔であり、お前は装置の誤作動に巻き込まれて魂を転送された』
「は? 世界の中心? 魂? 転送?」
なんだか不思議ワードが出て来たのだけれど、もう少し詳しく説明を要求したい。
コンピューターはそんな空気を読んだのか、さらに言葉を紡ぐ。
『簡単に言うと、お前の肉体は死んだが魂が装置に引っ張られて、ここへいるというわけだ。
かなり大きなエネルギーを消費したようなので、界をまたいだやもしれぬな』
――マテマテマテ!
色々情報が詰め込まれて混乱するのだけれど、まず最初に確認したいことは。
「僕って死んだの、いつの間に!?」
この問いに、コンピューターが冷静に答える。
『そうだ。装置は死んだ魂しか転送できない仕様だからな』
いやそんな「当然です」みたいな言い方されても困る。
アキヒサは「そんな馬鹿な話を信じられるか!」と言いたくなるのだけれども、何故かこの話を信じられると思ってしまった。
確かに最近不摂生をしていたし、たまに「胸のあたりが痛いなぁ」と感じていたけれども、仕事に追われて病院に行く暇などなく、その内治るかとほったらかしていた。
ということは、寝ている間に心臓発作で突然死だったのだろうか?
――貯金、あんなに死ぬ思いで働いて貯めていた貯金を、使わずに死んだなんて……!
これでは、なんのために働いていたのか。
アキヒサはがっくりと床に両手をついて落ち込む。
そしてあの汚部屋を事故物件にしてしまった大家さんには、非常に申し訳ないことをした。
orzの体勢で落ち込むアキヒサの様子に全く構うことのないコンピューターが、話を続ける。
『ちなみに魂があまりに弱っていたゆえ、放っておくと自然と消滅するところであったが。
せっかくエネルギーを使って転送したのに消えゆくのはもったいないと思い、その身体を私が急遽魔素で造った。
感謝せよ』
またまたビックリ情報が出た。
なんと、アキヒサ死んだのに魂すら消えるところだったらしい。
アキヒサが育った所は仏教系の施設で、幼いころからお勤めをさせられていたから、輪廻転生の権利があるはずだと思うのだが。
それに身体って造れるものだったのか?
「僕の身体を造ったって、それに世界の中心の塔ってどこ?」
少なくとも日本でそんな話を聞いたことがない。さっき『界をまたいだ』とか言っていたし、ひょっとして小説とかで見かける異世界ってヤツなのか?
アキヒサの疑問に、コンピューターが答えるには。
『ここはこの世界の英知全てを集わせた塔。
その力をもって、お前の身体を造り上げた。
魂の記憶に基づいて造ったゆえ、外見に大して差異はないはず。
だが中身は喜ぶがいい、かなりいい出来だと自負している』
コンピュータが心なし自慢気に話しながら、アキヒサが映る画面を見せる。
―― って外見は生前のまんまか。
そこはちょっとくらい、イケメン補正してくれてもよかったのではないだろうか?
気の利かないコンピューターである。
『ついでに言語の調整と、スキルも入れ込んでおいたぞ。
お前の魂にはこの世界で生きていくのに、必要なスキルが足りなかったからな』
言語の調整というのは、言葉が通じるってことだろうけど。
スキルって一体なんだ? と考えたら。
ピコン♪
目の前に透明なパネルが現れ、文字が浮かび上がった。
~~~
名 前 戸次明久
性 別 男性
年 齢 20歳
職 業 異世界人
レベル 1
スキル 全属性魔術レベル1 鑑定レベル1 探索レベル1 精神攻撃耐性レベル100(最大値) 料理レベル6
~~~
なんか、まるでRPGのステータスみたいなのが出た。
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