第三十七夜 気づいて
Eさんの田舎の実家の近くには、ほとんど手入れがされていない雑木林がある。道路が整備される前はこの雑木林を突っ切る形で細い林道があったのだが、もはや地元の人間すら使用しなくなってもう数十年が経つ。ナラやクヌギといった木々が折り重なるように枝を伸ばし、足元には無数のシダ植物が敷き詰められているために昼間でも薄暗くてじめっとしていた。
Eさんがお盆休みに実家に帰ってきた時のことである。
墓参りを済ませ、実家で親戚と集まって談笑していると、ふと携帯電話が見当たらないことに気付いた。今朝からの行動を思い出して、経路の付近を探して回っても一向に見つからない。すると、親戚のお姉さんが携帯の番号に掛けてみてくれたものの、着信音は家のどこからでも聞こえてこない。
「お墓に落としてきたんじゃないの?」
「そうかもしれない」
「そうだGPSを使って位置を探ってみようか」
お姉さんは自身の端末からEさんの携帯の現在位置を画面に表示してくれた。
「どこにあります?」
「えーと、近いよ。こっち……」
お姉さんが指差した方向には雑木林がある。
「雑木林の中にあるみたい」
「そんなはずは……だって帰ってきてから一度もそっちには行ってないですから。GPSの位置情報が少しずれているんですかね」
「たぶん……でも、そっちの方向で間違いないみたい。
外は夕暮れに差し掛かっている。早く回収しなければ、夜になってしまったら探すこともできない。
Eさんとお姉さんは懐中電灯を携えながら外に出て、裏の雑木林まで歩いて行った。その距離はだいたい三十メートルほどだ。
「やっぱりこの辺りなんだよねえ」
「こんな気味の悪いところに行かないんですけどね」
雑木林の中は鬱蒼として、三メートル先でさえ奥が真っ暗で見えない。セミとコオロギの鳴く声の中に、無数の飛来虫の羽音がする。人間を寄せ付けない何かを感じる。少しでもはやく離れたい気分だった。
「もう一度電話を鳴らしてくれますか?」
「うん」
お姉さんが電話を掛けると、雑木林の中からEさんの携帯の着信音がうっすらと聞こえた。
Eさんはなぜそんなところに自分の携帯があるのかという戸惑いを感じながらも、回収するために雑木林の中に入っていく。音はどんどんと近くなる。音のする方を懐中電灯で照らすと、木の根元に土が掘り起こされたような深さ三十センチほどの穴が空いていて、その中に携帯は音を鳴らしていた。
「ありました!」
Eさんが手を伸ばして携帯を拾おうとしたとき、付けていたストラップが土の中に引っ張られるような感覚がして思わず手を離した。もう携帯は沈黙している。お姉さんは通話を切ったのだろう。
Eさんは穴の中に光を向けて注意深く調べてみると、穴の底に白い木片のようなものが埋まっている。それには筋状の傷があってひどく汚れている。どうやら棒状のものが土に埋まっていたのが一部むき出しになっているような状態である。Eさんはその白い木片を取り出してみると、その正体に思わず絶句した。
それは骨だったのである。
Eさんとお姉さんはすぐに家に戻って、その旨を報告すると何人かの親戚が確認しに行った。穴をもう少し掘りだしてみると中から人間の頭蓋骨が発見されたらしい。警察に連絡し、しばらく雑木林は立ち入り禁止となった。
DNA鑑定の結果、骨の主は三年ほど前に亡くなった十代の女性のものであるとのことだった。捜査によると、隣県で三年前に起きた女子高生の失踪事件と結びついたという。
しかし、どうして彼女を発見するに至ったのかをEさんは上手く説明することができなかった。ひとりでに携帯が雑木林まで移動するなんてことは考えられない。もしかしたら彼女はどうにかして自分の居場所を教えたかった、気付いてほしかったのかな。とEさんは語ってくれた。
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