6章 崩壊
王と王妃の後を追うように、私にも結婚の話が持ち上がった。
相手はネイト・K・ドルズ。ドルズ公爵家の「本の虫」。
ローゼリアには意外だと言われた。どうやら「めちゃくちゃに驚いた」らしく、自分の立場も忘れてすっ飛んできた。まったく、学生時代から変わっていない。
私からすればそう驚くようなことでもない。
同じ公爵家としての付き合いはあったし、学院内ではそれほど交流は無かっただけだ。
人嫌いで有名だった彼は、ローゼリアに会って変わった。少なくとも本人は否定しているが、実際に変わったと思う。少なくとも私の茶会に付き合ってくれる程度にはなった。
夫婦とはいえ茶会に付き合うなんて早々は無いのだけれど、この男は読書の休憩と称して紅茶を飲む時間がある。それはどんな職務よりも忠実に行われた。この男に言わせれば、自分の休憩時間に私がわざわざ乗り込んできているという感覚なのだろうが。
子供の頃はまったくお互いにいけ好かないと思っていたのだが、私たちが冷え込まなかったのも、きっとローゼリアのおかげなのだろう。
……話を戻そう。
私たちは二年ほどした後に子供に恵まれた。
当時、ローゼリアとともにダンジョンに潜った者たちも結婚をし、それぞれの道を歩み出していた。
だが、王と王妃の間には相変わらず子供ができなかった。王宮内では世継ぎの不安がつきまとうようになっていた。
二十代最後の夏が過ぎようとしていた頃に、その不安は大きく膨らんだ。
学院を卒業してから結婚し、それから十年。
何度か声は上がったが、そのたびに「こういうのは授かり物だから」と暢気に構えていた。それが良くなかったのではないかと思う。
加えて、ローゼリアには子を成すことへの想いが強くなっていたように思う。
それはどちらかというと、子供っぽい憧れに近いものだった。
愛する人と結ばれることと、愛する人の子供を宿すことが、同列で語られているような気がしたのだ。
実際に経験してわかったことだが、子供を宿すというのはそれだけで大変な仕事だった。なにしろ腹の中にもうひとり人間がいるのだ。その痛みは尋常ではなかったし、ダンジョンや闇の皇帝との戦いで受けたいかなる痛みとも違うものだった。
しかし私達は貴族だ。家の名誉と存続のためには、次の世代は必要不可欠。庶民に至っては働き手の確保のためにも必要だろう。これは夫からの受け売りだが、庶民は王宮や貴族に比べて、格段に子供の死亡率が高い。更に人というのは魔力のように個体差があるため、母体によっても変わってくる。一生のうちに何度も子供を産める者もいれば、たった一度で命を落とす者もいる。いまでも田舎貴族などは「妻となった者は子を産んで一人前」などと言っているらしいが、ずいぶんと前時代的だ。実際は女によって違うものだから。
それがわかっているからこそ、王宮では側室が一人か二人はついていた。
王妃になるにも側室になるにも、家柄は重要だ。
だが少なくとも王の血を引いているのならば、子供の母親は誰でも構わないという事さえある。
昔のように何人もということはなくなったが、先代の王にも一人ついていた。先代は王妃が幸運にも二人の子供に恵まれたので、代替わりの際に王室を出ていった。公爵の位と領地を賜って、側室である母と、乳母とともにそちらへ移ったようだ。
側室が子供のできない体質である場合は家に戻されることもあるが、王妃の場合はそうではない。以前にも、王妃が子供ができない体質であったため、側室の子供が即位したことはある。長い歴史のなかでは、自分では子供を産まず、側室の子供を養子にした王妃もいたらしい。
だから二人に関しても、周囲はあまり深く考えていなかった。
だが今回は少し違っていた。
側室の話に待ったをかけたのは、他でもないヴァージル様だった。
あの二人が強い絆で結ばれ、愛し合っていたのは誰でも知っている。
更に言うなら、国民が聖女の子を待ち望んでいた。
無理もない。
封印されていた闇の皇帝を倒した、王子と聖女だ。この国を背負うに相応しい二人だ。その二人の子供となれば、真にこの国を背負うに相応しい王となるだろう。
だから国民はなによりも、王子と聖女の子を望んでいた。
たとえ何年かかっても、その奇跡のような子供を待ち望んでいた。
いつかその祝いの言葉が述べられることを信じて。
しかし、そろそろ頃合いではないか――というところで、いちどお二人の健康状態を確認することになった。いくらなんでも十年で一度も兆候が無いのは、どちらかに問題があるからに違いない。健康状態とともに、呪詛の類も徹底的に調べ上げられた。
あらゆる状態を調べた結果、ひとつの結論に達した。
誰が進言するかを散々議論し、結局、主治医の口から告げられることになった。
「大変申し上げにくいのですが、陛下、おそらく……」
「なんだ。申せ」
「奥様は……王妃様は、子をなすことができないお体かもしれません」
その言葉を聞いたヴァージル様は、ぼんやりと、ああ、とだけ言ったという。
詳しいことは私も専門ではないのでわからない。
ただ、それらしい病や呪いは見つからなかったという。だからもう、医者としては完全にお手上げ状態だったらしい。
呪いの類であれば良かったのに。
そうであれば、きっとなんとかなっただろう。
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