第90話 チャレンジ

 期末テスト終わり、日常が戻ってきた。海斗達はいつもの様に机を並べて昼食を取っていた。小野梨沙は嬉しかった

「皆とこうして昼食を取るのは、久しぶりだね」海斗は言った

「期末テストの期間は、半日だったもんね。放課後はどこにも寄らずに帰宅して、翌日のテストの見直しだもんね」


 中山美咲は小野梨紗の弁当に気が付いた。

「梨沙、今日はご飯のお弁当なのね。珍しいね」


 海斗は小野梨沙のお弁当を見て言った。

「へー、自分で作ったの!? 凄いじゃん! 昔は購買のパンが多かったのにね」

「しょうがないじゃん! 勝手が分からない頃はね。

なんで私が作ったって、分るの?」

「だってエレンおばさんは、お米のお弁当は作れないでしょ。

梨紗、良く頑張ったね」

小野梨沙はニコっと微笑んだ。

 林莉子は感心をした

「私ですら、自分で作らないのに、梨沙は偉いわね。もしかして、この間の料理実習で目覚めたのかしら?」

「うん、そうだよ。料理は得意じゃなかったけど、自分で作れる事が分かったら興味が湧いてきたの」中山美咲は思った。

「梨沙、日本のことわざで、好きこそ物の上手なれ、って言葉があるのよ。好きな事に興味を持って行う人は、誰よりも上達するって意味なの。だから興味の有るうちに、料理に取りくめば、誰よりも上達するわよ!」

皆は中山美咲の言葉に、関心をしてうなずいた。


「うん、有り難う美咲。じゃあ、早速、やってみるよ! ねえ、海斗、明日から海斗のお弁当を作っあげる!  海斗も私の料理の上達に協力をしてね!」


 皆は驚いた。一番驚いたのは良い事を言ったハズの中山美咲だった。ときめく小野梨沙は周りと温度差があり、中山美咲は戸惑った。

 小野梨沙は言った

「ちょっと海斗、聞いてるの!」


 中山美咲は意地っ張りである。自分の発言の手前、否定が出来なかった。

「海斗、梨沙の為に協力してみたら。毎日のお弁当作りは大変だから、きっと良い勉強になるしね」

 

 嘘である。中山美咲は続く訳が無いと思った。林莉子、鎌倉水は中山美咲の心情を察していた。林莉子な言った。

「梨沙、何日、作ろうと考えているの?」

「もう、何日も無いから最後まで作るよ」鎌倉美月は驚いた。

「まだ二週間ちょっとは有るわよ。梨沙、最初は大変だから、例えば三日間だけやってみたら?!」林莉子は促した

「一週間もやったら、懲りて料理が嫌いになるかもよ」


 小野梨沙は海斗の胃袋を公然と掴むつもりでいたが、嫌々作った料理は味に出るから、まずは三日間とした。

「うん、分かった。じゃあ、三日だけのトライアルにするよ」


 松本蓮は気付いた

「なあ、話がまとまった後に悪いけど、海斗の意見は聞かなくていいのか?」

林莉子も思った。

「そりゃあ、そうだよね」

 皆は海斗の顔を見た

「実はさ、たまに葵が作ってくれるんだよ」

皆は驚いた。鎌倉美月は言った

「はー? 中学生の葵ちゃんが、お弁当を作れるの?!」

「それがさあ、美味しいんだよ! 葵は凄いね!」


 海斗の配慮の欠ける発言に、女子は肩を落とした。


 中山美咲は焼き餅を焼いた

「もー! 海斗は未だ、葵ちゃんに胃袋掴まれているのね。呆れちゃうわ」

 海斗は失言だった事に気が付いた。林莉子は言った。

「もー、あの子はどこまでブラコンなのかしら」

小野梨沙も負けてはいられなかった。

「それじゃあ、正しく兄離れが必要ね。前もって言っておいてよ! 三日間は梨沙お姉ちゃんが作るって!」

「……」

皆はきょとんとした。林莉子は気付いた。

「ちょっと聞き流しそうになったけど、いつからお姉ちゃんになったのよ?!」


 小野梨沙は恥ずかしがり、自分の髪をくるくる触った。松本蓮は気遣った。

「海斗、それで良いのか」

「うん、いいよ。三日だけなら、言い訳は何とでもなるしね。梨沙、お願いします」

小野梨紗はかしこまった。


「ねえ、三日間美味しかったら、ご褒美ちょうだい!」

「うん、いいよ。常識の範囲だよ」

「ホント?! 私、横浜の夜景が見たい!」


 海斗は周りを見渡した。松本蓮と鎌倉観月、林莉子は楽しそうな顔をしている。これは一緒に行こうとしているな。中山美咲はホッペを膨らましている。これは二人で行くな、と言う意思表示だな。それじゃあ、


「梨沙、三日間ガンバれたら、ランドマークタワーの展望台に連れて行ってあげるよ。六十九階にある展望台から見る夜景は綺麗だよ。その後は汽車道を歩いて、赤レンガ倉庫で食事をしよう。食後に山下公園まで歩き、帰りはシーバスに乗ろう。船上から見るみなとみらいの夜景もとっても良いよ。普段は見られない方角だからね、これもとっても綺麗だよ。


 小野梨沙は聞いているだけで、うっとりしていた。中山美咲は聞いているだけでホッペがパンパンになっていた。


 海斗は続けた。

「シーバスの終点は横浜駅の東口だけど、離れた場所になるからJRの改札まで歩いて解散だよ。梨沙の分は弁当代として俺がおごるから、皆は自費でお願いします」


 小野梨沙は浮かれていたのに、急に現実に引き戻された。中山美咲はきょとんとした。松本蓮、鎌倉観月、林莉子は、楽しそうな顔をしていた。三人は参加前提で聞いていたので喜んだ。


 林莉子は楽しくなってきた。

「ねえ、美咲、楽しみねー! 梨紗が作り切れば、夜景を見に見に行けのねね。横浜港の夜景を高層からと、海から見られるなんて応援しないとね」

「ううん、そうね、楽しみだわ。でも何で海斗は、そんなに詳しいの?! もしかして、葵ちゃんと行ったんでしょ!」

中山美咲は優しく睨んだ。


「ち、違うよー、なあ、蓮!」海斗は松本蓮に振った。

「美咲、俺たち三人で昨年、カメラを持って歩いているんだよ」


 中山美咲も林莉子も納得した。小野梨沙は口を尖らしていた。

皆は梨沙に向かって言った。

「梨沙、ありがとう!」海斗は言った

「楽しいイベントがまた出来たね」

「ううん……」


 小野梨沙はの思惑が外れたが、皆と過ごす時間も楽しいと思い機嫌を直した。海斗の胃袋を掴みロマンチックな夜景を見て、二人の関係が発展する事を夢に描いていたのだ。やはりこの仲間では抜け駆けは難しのだ。

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