第64話 NGワード

 海斗の隣のテーブルが騒がしくなった。佐藤美優は怒った。

「駿、食べ過ぎ! 何人分食べているのよ!」

 田中拓海は悲しい顔をした

「あ~あ、僕、未だ食べてないのに」

 鈴木萌えは田中拓海に教えた

「拓海、駿と食べるときは、自分のお皿に先に取って置くんだよ」

「あ~、なるほど。もっと早く教えてよ」松本蓮は呆れた

「あんなに有ったのに、確かに遠藤は運動部だもんな。そりゃあ食べるよ」

 海斗は目の前にあった皿を持ち上げた

「おい、田中! こっちの皿は、いっぱい有るから、食べなよ」

 海斗は唐揚げを、空いた皿に取り分けた。

「稲垣さんと桜井さんも食べていますか? 遠慮しないで箸を伸ばして下さいね」


 桜井メイは目を輝かして海斗を見た。そしてストレートな質問をした。

「伏見君は優しいですね、きっと貴方の彼女は幸せでしょうね。

伏見君の彼女は、どの方ですか?」


 桜井メイの一言に、皆は止まった。視線は海斗に集まった。

海斗の事を好きな女の子は背筋を伸ばした。この面々で、その話題は仲間割れを起こしかねないNGワードなのだ。松本蓮は割って入った。


「やだな~、桜井さん、海斗は彼女居ないよ」

 鎌倉美月も助けに入った

「そう、鈍感でダメな男なのよね~、は、は」

 松本蓮と鎌倉美月は最善の策としての発言だったが……

桜井メイの背中を押した。


 桜井メイは勇気を出して言った

「私、こ、公園で抱かれて……」


 京野颯太は吹き出した

「ブー! お、お前! その子を抱いたのか!?」

 遠藤駿も驚いた

「え~、なんだよ、それ!」佐藤美優は言った

「キャー! 伏見君のエッチ」


 稲垣京香は説明をした

「違うんです。写真の課外授業の時に、子供がメイにぶつかって来たんです。噴水に落ちそうになったメイを伏見君が抱きかかえて、助けてくれたんです」

 京野達は安心をした。橋本七海は否定した。

「私は最初から、変な事は思わなかったわ。伏見君に、そんな度胸は無いもの!」

 小野梨紗は京野の反応が可笑しかった。

「ププ、京野君は早とちりしすぎだよ! おっかしー」

森幸乃は笑い、京野グループも笑った。


 桜井メイは話を続けた

「私、伏見君に抱きかかえられた時、伏見君が好きになったみたいです。キャー、私、言っちゃった」

皆は驚いた。マスターまでも声を合わせて言った。

「えー!」


 海斗グループは、その発言にうなだれた。

「伏見君、彼女が居ないなら、私、立候補しても良いですか?!」

桜井メイは周りの空気が読めず、一人で暴走した。

 稲垣京香は空気を読み取った。

「済みません。恋愛経験が無いもので、つい……。悪い子じゃ無いんですよ」

海斗の仲間は心臓が飛び出す程、ドキドキしていた。


 海斗は桜井メイに話しかけた。

「好意を持ってくれて有り難う。でもね、助けた人を好きになる感情はフランクリン効果って言って、きっかけに過ぎないんだよ。だから一時的な感情なんだ。桜井さんには時間をかけて、好きな人を探して欲しいな」


 桜井メイはうつむいていたが、顔を上げた

「はい、分かりました。では、今からお友達になって下さい」

「ん? 今からは、友達にはなれないよ!」

皆は海斗の冷たい反応に驚いた。桜井メイは悲し顔をした。

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