第65話 アップルボビング

 桜井メイは、もう一度海斗を直視した。

「やっぱり、ダメですか?」

「ううん、違うよ! 今からじゃ無くて、写真の課外授業をした時から友達でしょ!」

「わー、嬉しい。伏見君!」

 桜井メイは海斗の手を取り、きつく握った。

「イテテ、桜井さん、ちょっと、強いかな?!」


 稲垣京香は桜井メイの腕を引っ張った。

「皆さん、済みません。ホント、不器用なので許して下さい」

稲垣京香は桜井メイの頭を抑えて、一緒に頭を下げた。

「いいよ、謝らないでよ。楽しくやろうよ、友達でしょ」

林莉子は海斗グループを見て

「えっ、いいの?」

海斗の仲間はホッとしたものの。複雑な気持ちになった。


 橋本七海は海斗の態度をみて褒めた。

「伏見君、良いこと言うじゃない、見直したわ。じゃあ私と付き合ってみる?」

海斗は驚き、皆は言った。

「ダメー!」

「なによ、冗談よ。なんで桜井さんの時は静かだったのに、全否定なのよ!」

皆は笑った。


 小野梨沙は席を立った

「さあ、皆! ハロウィン恒例の楽しいゲームを始めるよ。

ねえ、海斗、たらいを用意して!」

 男子は小野梨沙の言う通りにテーブルを動かし、たらいをテーブルに置き、水を張った。小野梨沙は紙袋からリンゴを出して、たらいの水に浮かべた。


「皆、このゲーム知っている人?」

「……」

「これから行うのは、アップルボビングです! たらいに浮かべたリンゴを手を使わずに沢山取った人が優勝です。女子はメイクの都合が有るので、勝手に選抜するね。蓮と遠藤君の対決と、海斗と京野君の対決で、取ったリンゴの数で勝敗を決めます。制限時間は三分です。浮いたリンゴを噛みつくのは大変なんだよ、タライの床にリンゴを押し付けてもダメだよ、上手にコツを掴んでね」


 マスターは若い頃に、遊んだ事を思い出した。

「ねえ、皆、子供たちの中に割って入ってごめんね。折角のゲームだから、優勝者にプレゼントをあげよう。喫茶「純」のドリンククーポン券を10杯分だ!」

皆は歓声をあげて喜んだ。


 伏見グループと京野ループに分れ、応援合戦が始まった。二人は一つのたらいの前に立った。小野梨沙はスマホのタイマーをかけた。

「最初は蓮と遠藤君の対決だよ、レディー、ゴー!」


 二人は必死にリンゴに噛み付いた。しかし浮いたリンゴに歯を立てる事は想像以上に難しかった。お互いの顔も頭もぶつかった。それぞれのグループは興奮しながら応援をした。

「ピピピ…!」三分のタイマーが鳴った。二人はビチョビチョの顔を上げた。結果は松本蓮が零コ、遠藤駿は一コ取る事が出来た。京野グループは喜んだ。

「わー!」


 次は海斗と京野の対決となった。小野梨沙は水を足しリンゴを浮かべた。

海斗は京野颯太に指をさした。

「おい! 京野颯太、負けないからな」

「いいだろう、受けて立ってやる、伏見海斗、負けて泣くなよ!」

 小野梨沙は声をかけた。

「レディー、ゴー!」

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