第15話 修学旅行(3)

 旅館に到着すると生徒達は各部屋に分かれた。夕食は六時から「宴の間 羊蹄山」が会場となった。六人掛けの座卓に温泉旅館らしく会席料理が並んだ。

 海斗のグルーも席に着いた。海斗は料理を見て目移りをした。

「すごい料理だね! 昨日のビュッフェもいいけど、やっぱ温泉旅館はコレだよね」

「うまそうだね、一つ一つ写真を撮っちゃおうかな。ねえ美月」

「そうね、蓮、映える写真が撮れそうね」


 生徒達の笑顔が並ぶ中、小野梨紗は浮かない顔をした。

「私、食べられるかな、そもそも正座して長く座る事が出来ないし」

 林莉子は気遣った。

「大丈夫よ、味覚は食べてみないと何とも言えないでしょ。お刺身以外は火が通っているんだから」中山美咲も続いた。

「座り方だって膝を崩せばいいのよ。お茶会じゃ無いのだから。座椅子の背もたれを使って足を伸ばせば良いのよ」

小野梨紗は少し安心をした。


 生徒達が座ると、仲居さんが固形燃料に火を入れ始めた。心配していた小野梨紗の表情が明るくなった。

「素敵なコンロね、これでお肉を焼くのね。楽しみになってきたよ」

 楽しい夕食が始まった。

「私、この前菜が嫌いだから蓮にあげるね、だからソレ頂戴!」

鎌倉美月は松本蓮のお皿から、お肉一枚取った。

「それじゃあ、バランス悪いだろ、もう!」

 林莉子は二人を見ていた。

「松本君と鎌倉さんは仲が良いのね。社会人になったら最初に結婚式をしたりして、ねー!」

鎌倉美月は赤面した。松本蓮はそっぽを向いた。

「ち、違うよ! 俺はアイドルみたいな可愛い子と結婚するんだから!」

鎌倉美月は松本蓮の頬をつねった。松本蓮は彼女を見つめた。

「あれ、もしかして美月、俺のこと……?」

「バカじゃないの、死ね!」

「ほらね、いつもこうだよ」

皆は笑った。


 海斗は小野梨紗の顔を見た。

「小野さんは、どう、食べられる?」

「うん、とっても美味しいよ。心配して損しちゃった。海斗、お刺身食べる?」

小野梨紗は刺身を箸で持ち、海斗の口に運ぶと、皆の視線が海斗に刺さった。

 海斗は慌てて止めさせた。

「もうー、小野さん、ダメだよ、ダメ! もー、からかわないでよー」

小野梨紗は刺身を海斗のお皿に置いた。林莉子は中山美咲に愚痴を言った。

「何か良い雰囲気よね、私も京野君がいたら、あ~ん、してあげるのにー!」

 中山美咲は気遣った

「ホントに居たら出来ないくせにー。よしよし、私が京野君になってあげるから」

「もー、なれる訳ないじゃん!」

中山美咲は林莉子の肩を抱いた。

「美味しい料理が有るんだから楽しく食べようよ」

しかし林莉子は焼け食いをした。


 食後は卓球台に向かった。林莉子が予約していたのだ。六人のトーナメント戦が行われ、卓球を楽しんだ。中でも熱い戦いだったのは海斗と松本蓮の戦いだった。しかし優勝者したのは林莉子だった。隠していたが中学時代はテニス部だったのだ。元テニス部と写真部の戦いでは話にならなかったのだ。


 卓球を終えると、汗を流すために部屋に戻り大浴場に向かった。男湯の更衣室で、松本蓮は女性更衣室を隔てる壁を見つめた。

「なあ海斗、この壁一枚で女の子が裸なんだよな、想像すると元気になっちゃうよな!」

「ホント、このハンドタイルじゃ隠しきれなくなるよ!」

松本蓮と海斗は豪快に笑った。

「ワ、ハ、ハ、ハ」


 一方、女性用更衣室では鎌倉美月は中山美咲の胸を覘いた。

「中山さんって、大きいのね」

「やだーもー、鎌倉さんだって大きいじゃない」林莉子は言った。

「どうせ、私はちっぱいですよ。あら小野さんって脱ぐと、もっと白く見えるのね」

「白過ぎても、目立って恥ずかしいのよ」


 皆は大浴場へ入り体を洗った。小野梨紗が体を洗っていると、好奇心旺盛な鎌倉美月は歩み寄った。

「ねえ、小野さん背中洗ってあげるよ」

 小野梨紗は拒んだが、強引に背中を捕られた。鎌倉美月は小野梨紗の背中に沢山の泡を作って優しく洗った。

「鎌倉さん、くすぐったいよー」

「そうかい、もうちょっと、もうちょっと」

 鎌倉美月はオヤジモード全開になった。背中に作った泡を胸に運び、後ろから胸を揉んだのだ!

「イヤーン、やめてー!」

「もうちょっと、もうちょっと」

鎌倉美月は幼い頃から海斗達と遊び、男脳を持ち併せていたのだ。

「もー、ダメー!」

 鎌倉美月は、すっと手を引いた。

「おっぱい、大きいね。すごい弾力があったよ」

鎌倉美月は、満面の笑みを浮かべた。


 その声は壁一枚隔てた海斗達にも聞こえた。海斗は松本蓮を見た。

「今の小野さんの声じゃねえ?」

「あいつら、何やっているのかな。こう言うの、やってみたかったんだ」

 松本蓮は大きな声で、壁の向こうに居る鎌倉美月に呼びかけた。

「おーい美月、居るかー?!」

生徒達は急に黙り、耳を澄ました。

「おーい、居るよー!」

男子の浴場は、どよめきが起こった。


 海斗も続けた。

「小野さんの叫び声が、聞こえたよー」

「海斗―、鎌倉さんがいたずらするのー」

 中山美咲と林莉子は声をそろえて言った。

「私達もいるよー」小野梨紗は調子に乗った。

「海斗もこっちおいでよー!」

「小野さーん、それは無理だよー」


 先に静かに入浴していた京野颯太も、スイッチが入った。

「美咲さ~ん、僕、京野颯太もいますよー!」

「……」中山美咲は無音で返した。

 悲しくなる京野颯太を遠藤駿はなだめた。次に遠藤駿は言った。

「京野君、こう言う事も有るよ。橋本さんは居ますかー!」

「遠藤くーん居るわよー、京野君も居るのー?」

京野颯太は対象のスイッチを切り替えた。

「橋本さーん! 温まっていますかー」


 まるで川の対岸に居る恋人達の様だった。一般客から見たら迷惑行為そのものであった。京野颯太は考えた。

「皆! 内風呂は迷惑なので、人の居ない露天風呂で話をしましょうー」


 興味津々、内風呂に居た生徒達はゾロゾロ露天風呂へ移動した。横浜の夜空と比べものにならない程、満天の星空が見えた。

 露天風呂に出た京野颯太は星空を見上げ感動した。女風呂に向けて右腕を挙げた。

「美咲さーん! この美しい夜空の星より貴方は何倍も美しい、貴方と付き合えるのなら、何でも好きなモノを買って上げるよ。美咲さん好きだー!」


 京野颯太は場所もわきまえず、絶好調なプロポーズをしてしまった。中山美咲は聞こえない振りをしたが、林莉子と橋本七海はそのプロポーズの名前部分を自分の名前に自動変換され、乙女脳に響くので有った。彼女達は声を合わせて叫んだ。

「京野くーん、大スキー!」

京野颯太は、中山美咲の返事を待っていたが、別人の声だったので玉砕した。


 海斗はその様子を見て笑った。

「蓮、面白いね。まるでコントだよね」

「なあ海斗、ミスグランプリが大好きって言っているのに、京野の目は節穴だな」

「そうだね、ホント節穴だね。ミスグランプリがあんなにアピールしているのにね」

「楽しい時間だけど、そろそろのぼせてきた。俺、先に出るね」

「蓮、俺も出るよ。一緒に出ようよ」

 松本蓮は声を張った。

「おーい美月! 俺達先に出るねー」

「わかったー!」

海斗達につられるように、小野梨紗、中山美咲、林莉子も出た。


 三十分も先に入浴を始めた京野颯太は、しっかりのぼせていた。何も裸が見える訳でもないのに、中山美咲が出るまで湯に入っていたのだ。歩き初めて早々にバランスを崩した。転倒して後頭部を打ち気を失った。

 遠藤駿は松本蓮に声を掛けた。

「松本、手を貸してくれないか? 先生にばれると面倒だから、見つからないように部屋に、連れて行きたいんだ」

 遠藤駿と松本蓮は、京野颯太を両脇から抱きかかえ、部屋に運び込んだ。廊下で騒ぎに気付いた女子二人も心配して付いて来た。


 京野颯太を寝かし、布団を挟んで奥側に遠藤駿と田中拓海、手前側には橋本七海と佐藤美優が付き添っていた。畳敷きの部屋の奥の窓側には板の間が有り、海斗と松本蓮は籐製の椅子に座って様子を見ていた。松本蓮は海斗を見た。

「なあ、京野、死ぬのかな~」

「蓮、縁起でもない事言うなよ。顔色は良いよ」

「京野の枕を囲んで正座して、ほら見ろよ。ミスグランプリが泣いているぞ」

「橋本さんは心配しているんだろ、まったくけなげだよな」

「畳に布団でこの状況、時代劇で見たことないか? お父さん逝かないで……」

「ププ、確かに、見たこと有るかもね」

 すると京野颯太が、かすかに動いた。

「京野君、起きて、ねえ京野君」

 橋本七海は腰を上げ、彼の肩を優しく揺すった。遠藤駿も京野颯太の顔を見た。松本蓮は遠藤駿の横に座り耳打ちをした

「遠藤! 橋本さんの胸を見てご覧よ」


 橋本七海は膝立ちの姿勢で前屈みになり、京野颯太を見ていた。浴衣の胸元からプルンプルンの谷間が見えた。遠藤駿は目が奪われた。三十秒もしないうちに、鼻血が出て来たのだ。佐藤美優は驚いた

「遠藤、鼻血が出ているよ! 心配しすぎなんだよ。あっちで休んでいなよ」

 遠藤駿はココに居たいのに鼻血の為に、惜しくも前線から後退しなくてはならないのだ。その前線には、松本蓮と海斗が再配置された。


 松本蓮は思った。お前は京野颯太と同じく長時間風呂に付き合ったよな。ラガーマンだから倒れなかっただけだ。血の巡りが良い時にあこがれの巨乳を至近距離で見れば、誰だって鼻血の一つや二つ、出てもおかしくない。前線を離脱した事は、誠に気の毒だった。友よ、お前の後退は無駄にしない! 


 京野颯太の身内の様に振る舞う、橋本七海は海斗達に話しかけた。

「松本君も伏見君も、心配してくれて有り難う」

 佐藤美優は又しても思った。七海おまえは女房か! まあいい、京野を見舞う遠藤も良かったけど、伏見と松本が並ぶのも悪くない。


 すると京野颯太は目を覚ました。

「あれ、ココは……」

 遠藤駿はティッシューで、鼻を押さえて言った

「京野君さあ、露天風呂でのぼせて転倒したんだよ。それで頭を打ってさ、松本と俺で先生に見つからないように部屋まで運んで来たんだ」

 京野颯太は体を起こすと、頭に激痛が走った。自ら後頭部を押さえた。

「イテテテテ、あったま、痛た!」

橋本七海は痛がる京野颯太の上半身を自分の胸に抱き寄せた。

「もう、いっぱい、いっぱい、心配したんだからね」

橋本七海は涙ぐんだ。

 京野颯太は、柔らかい胸が頬に触れているのが解かり赤面した。松本蓮は面白かったのでその顔をスマホに納めた。しばらくすると、体を動かせるようになった。京野颯太の失態は収拾し女子は部屋に戻って行った。


 先に部屋に戻っていた女子は乙女のケアをしていた。林莉子は呟いた。

「お肌がパリパリになる前にローションよね」

「莉子は肌が綺麗ね。そのローション見せて」

中山美咲はボトルの説明書きを読んでいた。小野梨紗は皆に話しかけた。

「橋本さんと佐藤さん、遅くない?」林莉子が答えた。

「もしや、抜け駆けをして京野君の部屋に行ったんじゃないかしら?」

「まさか、そんな事、しないと思うよ」林莉子は続けた。

「美咲はあまい! あの女は、そういう事をする女よ。あのミスグランプリなら男は秒殺でしょう」

 小野梨紗は首を傾げた。

「でも、京野君は中山さんの事が好きなんでしょ。それじゃあ上手く行かないよ」

「それも、そうねー」

 林莉子は安心した。すると橋本七海と佐藤美優が帰ってきた。今までの話が無かったかのように、乙女のケアを続けた。

 橋本奈七海は京野颯太を、この胸で抱き寄せた事が嬉しかった。時より思い出し、笑みを浮かべ眠りに着いた。 


 (修学旅行三日目)

 最終日の朝を迎えた。生徒達は朝食の並んだ座卓に着いた。海斗は小野梨紗を見た。

「小野さん、今日も美味しそうだね」

「やだ~海斗ったら、私の事を美味しそうだなんて。朝から飛ばすわね!」

朝から飛ばすのは小野梨紗だった。皆と過ごす時間が楽しかったのだ。

 海斗は言い直した。

「小野さん、今日もおいしそうなだね、このメニュー」

「海斗のいじわる。このお魚は何?」

「アジだよ、アジの干物だよ。ちょこっと醤油を垂らして召し上がれ」


 中山美咲は、海斗を優しくにらみつけた。

「伏見君は中山さんに優しいのね」

「まあ、そう言わないで。外国生活が長かったから、和食になれてないんだよ」

 林莉子は自分のアジの干物を指した。

「伏見君これ、な~に」

「も~、からかわないでよ!」

 林莉子の頬がふくれた。

「伏見君、私にも優しくしてよー!」


 興味本位に鎌倉美月はアジを指した。

「松本君これ、な~に」

「はいはい、アジだよ、アジ」

「知っているわよー! 何か面白いことを言いなさいよ!」

「もう、いつもこれだよ」

皆は笑った。


 朝食が終わると各部屋に戻った。出発時間が近づき準備が終わった者からバスに向かった。松本蓮はトイレの都合で先に退室し、ロビーで海斗を待った。すると佐藤美優が歩み寄って来た。

「松本君、隣に座ってもいいかな」

松本蓮はうなずいた。

「昨日、松本君のカメラ見たよ。あのカメラ高いの? とっても使い易そうだったね」


 松本蓮は、鼻高々にカメラ機能とスペックを話し始めた。佐藤美優はBL用に良い写真が撮りたかったのだ。カメラの事はわからず、聞くこと全てが知識となった。


「松本君が、写真を撮っているところを見たけどプロっぽかったよね」

「そうかなあ、女の子に褒められる事が無いから照れるなー」

「松本先生! どうか写真の撮り方を私に教えて下さい!」

 松本は顔がゆるんだ。

「いいよ、俺で良かったら何でも教えてあげるよ! 写真の事、何でも聞いてね」

松本蓮は快諾をした。仲良く話す二人の前を女子が通った。


 林莉子は松本蓮を見つけた。

「もう、松本君も隅に置けないよね。佐藤さんBL好きなのにね。そろそろ卒業なのかしら?!」

中山美咲は林莉子を見て、片目をつぶり自分の口の前に人差し指を立てた。


 鎌倉美月は小野梨紗としゃべりながらロビーの前を通った。鎌倉美月は松本蓮が佐藤美優と二人だけで楽しそうに話していた所を見て、見ぬ振りをしてバスに向かった。鎌倉美月は席に付き、見て見ぬ振りをした自分に驚いた。


 生徒達はバスに乗り旅館を出発した。長谷川先生はマイクを持った。

「はい、今日は最終日です。楽しい思い出が出来ましたか。これから余市に行って余市蒸留所を見学します。その後は新千歳空港に行って帰路に着きます。お土産を買う人は、この余市か飛行場で買って下さい」


 鎌倉美月は、いつもと様子が違って見えた。隣に座る松本蓮は心配して声を掛けた。

「おい美月、何か調子悪いのか? 朝食、食べ過ぎたんだろ?」


 鎌倉美月は考えていた。たまたま他の女子と話しているのを見かけただけなのに、何で、こんなに胸が締め付けられるのか、今までには無い感覚だった。いつも蓮はそばにいて、これから先もいるものだと勝手に思っていた。あんなに楽しく女の子と話をしている姿を見ると、心がザワザワする。蓮が誰かと話をしたって自由なのに……。気になるなら直接聞けばいいのに、怖くて聞くことが出来ない。私は、どうかしていると思った。


 松本蓮は改めて話しかけた。

「おい美月、聞いているの?! 気分悪い?」

「もう、うるさいなー! 蓮、大丈夫だよ。今度はどこ行くの?」

「美月やっぱり可笑しいよ。今、余市に行くって聞いたバッカじゃん!」


 二人を見ていた海斗は中山美咲に話しかけた。

「美月、どうかしたの? 部屋で何か有ったの?」

「何も無いよ。さっきね、ロビーで松本君を見なかった?」

「あ、見たよ、佐藤さんと話をしていたね」

「多分それよ! 解らないの? もう、鈍感なんだから」

「だって話をしていた、だけじゃん?」

「私、鎌倉さんの気持ち分かるなあ。好きな人が、他の女の子と楽しく話していたらショックだよ。だって鎌倉さんは松本君を見たのに、見て見ない振りをしたんだよ。つまり無かった事にしたんだから」

「えー、美月が……そんな乙女な事をするの?」

「もう、カニのついた手で怒った時も……、女の子の感情が解らないのだから……」

「えー、俺が悪いの?!」

「松本君の話! 伏見君も似ているけどね!」

 また鎌倉美月を見ると一変していた。鎌倉美月は、松本蓮の頬をつねって騒いでいた。

「あ、ほら、いつもの二人に戻ったじゃん。考え過ぎだよ」

中山美咲は海斗に苦笑で返した。


 バスは、余市蒸留所に到着した。林莉子は皆に話しかけた。

「ここはね、ウイスキーの父と呼ばれた梅鶴政孝さんの作った蒸留所。併設してウイスキー造りの歴史を学べる所なの」小野梨紗も続いた。

「私ね、お父さんに余市の話をしたら知っていたわ」松本蓮も続いた。

「ビール工場に、ウヰスキー蒸留所、北海道の人は、お酒が好きなんだね」

 鎌倉美月は首を傾げた

「それは本当に、そうなの?」


 生徒達はガイドに連れられ建物を巡り、ウイスキーの製造工程の説明を受けた。初めて目にするものばかりだった。

 海斗は隣の小野梨紗に話しかけた。

「小野さん、ここも小樽の様に独特な雰囲気がある建物だね」

「そうね、雰囲気があるわね。それにビールの様に機械的に作られる物と思っていたけど、手作り感が有って人の温度が感じられるお酒なのね」

 松本蓮は心にしみた。

「創業者、梅鶴さんの思いを今も継承しているなんてロマンがあるね」

 鎌倉美月は味も知らない酒を口にしたくなった。

「ねえ、作る過程を知ると、何だか飲みたくなっちゃうね!」

 林莉子もロマンを感じで飲みたくなった。

「そうよねー、影響された生徒が飲酒しないように、最終日に予定したのかもね」

 中山美咲はため息をついた。

「でも飲酒出来るのは、未だ三年も先よ」

 鎌倉美月はときめいた。

「このメーカーだけという石炭を使った蒸留釜のお酒を飲んでみたいよね。今度、親が出かけている時に蓮の家で、内緒で飲んじゃおうよ、ねえ、海斗!」

「だからダメだめなの! そうだ、成人式の後、皆で飲もうよ」

 林莉子は賛同した。

「それ、いい案ね!」

皆も賛同した。


 生徒達は観光バスに乗り、新千歳空港に向かった。帰りの飛行機で幸運な窓側に座ったのは京野颯太だった。その隣は橋本七海が座った。

 橋本七海は、窓を見る振りをして京野颯太の横顔を見つめた。時より寝たフリをして京野颯太の肩に寄りかかり、彼女は京野颯太の隣をフルに満喫したのだ。

 どうやら彼女も男脳の持ち主らしい。三日間の修学旅行は沢山の思い出を残して終了した。

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