第36話 解決策
長谷川先生が両手を叩いた。
「ちょっと、静かに! 冷静になれ! 考えがまとまらない事なんて、社会に出たら幾らでもあるんだ。その度に仲間割れをしていたら何にも解決出来ないよ。社会人として二足の草鞋を履いている京野の意見を聞かせてくれ」
「出店条件の文章を読み直してみるのはどうかな。何事も取り決めをする文書には、約款と言って大なり小なりルールが書かれているんだよ。今回はそのルールにより参加辞退となる訳でしょ。余談だが弁護士の仕事はコレを逆手に取って交渉をするんだよ。参考までに模擬店の出店条件を読み上げて、皆で聞いて考えてみるのは如何でしょうか」
「流石、京野だ! 早速、山田、読み上げてくれ」
山田委員長は読み上げた。九つの条文が有り一文ずつ読み上げた。八つまで読み上げ、どれも解りやすい表現で問題を回避出来る文章は無かった。最後の条項を読み上げた。
「上記に定めの無い事情が発生した場合、双方協議の上、決定をするものとする」
生徒達は最後の条項を聞き、条件緩和について直接的な表現が無いため、落胆し、ため息が聞こえた。
京野颯太は理解した
「山田君、ココだよ! 分からないのか?」
山田は首を傾げた。
「定めの無い事情だよ。双方協議するんだろ、これで協議しよう」
「うん、コレで交渉出来るんだね。でもさ、どうやって協議するんだよ?! 相手は生徒会だよ。しかも生徒会長は三年生だし、話を通すのは難しいと思わないか!」
京野颯太はため息を付き、視線を下げた。生徒達は一喜一憂した。
海斗と松本蓮、鎌倉美月は相談をした。そして海斗は席を立った
「俺達、ミスコンで生徒会長と、顔を合わせる機会が有るから相談してみるよ」
再び生徒の顔が明るくなった。松本蓮も席を立った。
「でも、まだ安心はしないでくれ! 今日の放課後に生徒会室に行ってみるよ。
池田会長が居れば良いんだけどな。その上で相談だよ」
長谷川先生は手を叩いた。
「うん、いいね、これが建設的な会議なんだよ! 皆も覚えておいてくれ、私だって今から中止は避けたい。私も先生方に相談してみるから、皆も前向きに準備を進めてくれ」
生徒会との交渉が解決した前提で、ホームルームの残りの時間は引き続き模擬店準備の時間に使われた。
小野梨紗は海斗を見た。
「海斗、私はどうなるか心配だったよ」
「梨紗には暗い顔は似合わないよ」
「有り難う、海斗」
海斗の仲間も、交渉の成り行きになるにしろ安心をした。
海斗は続けた。
「梨紗はクラスの心配よりも、ノミネートの心配をした方が良いよ。自己紹介と特技の披露が有るからね」
小野梨紗はぞっとした。
「何をするの?」海斗は少し考えて言った
「そうだね、梨紗の場合は英語が得意だから、英語で自己紹介して注目を集め、それから日本語で親しみ易い話をするのはどうかな、特技の披露はカラオケを歌う人が多いようだから、カラオケで良いかな。やりたいことが有れば、何でも挑戦するのも良いけどね」
林莉子は中山美咲に話しかけた。
「ねえ美咲、選ばれると、それはそれで大変よね」
「そうね、大変だね。梨紗、応援するから頑張ってね」
小野梨紗は明るい顔になった。
(放課後の生徒会室にて)
海斗達は放課後に、生徒会室にやって来た。海斗はノックをして、生徒会室に入った。生徒会の生徒は学園祭に向けて、忙しそうに書類を作っていた。
池田会長は海斗達に話しかけた
「やあ、写真部諸君、今日は打ち合わせだっけ?」
海斗は相談を始めた
「忙しいところ済みません。クラスの模擬店の件で相談に来ました」
池田会長は首を傾げた。小川書記も歩み寄った。
「実はウチのクラス二年B組の模擬店の許可に付いて何ですが」
「えっ、伏見君は二年B組だったの? コスプレカフェでしょ。楽しみにしているよ!」
海斗は池田会長が知っている事に驚いた。
「池田会長、模擬店はコスプレカフェじゃ無くて、メイドカフェです。実はウチのクラスにミスコンのノミネート者が二名も居て、模擬店の運営に支障が出るんですよ」
小川書記は質問をした。
「具体的には、どんな支障ですか」
「ミスコンが行われる二日目の午後、クラスで応援に行きたいので、午前中で終わりにしたいのです、許可して頂けませんか?」
「二日間の十時から十五時が出店条件ですから、悪いけど無理ですね」
小川書記はあっさり否定をした。海斗は食い下がった。
「出店条件の最後の行に、定めの無い事情が発生した場合、双方協議の上、決定をすると書いて有ります。一クラスにミスコン出場者が二名もいたら、特殊なケースになりますよね。そこを含んで貰えませんか」
「困りましたね、会長どうしますか?」
「確かに困ったね-、しかし特例を出すと歯止めが効かなくなるしね」
海斗は池田会長に歩み寄り、耳打ちをした。
「池田会長は橋本七海さんのファンですよね、メイドカフェが中止になっても良いのですか?! または教室の模擬店を優先にし、二名のミスコン候補が辞退すれば、ミスコン事態が台無しになります。それも困りますよね」
池田会長はあっさり決断した。
「二年B組に特別に許可を出そう。ただし余計な仕事が増えるから他言無用だよ」
海斗達は胸をなで下ろした。小川書記は不思議な顔をした。
「会長、何を言いくるめられたんですか?」
「いや、折角の学園祭だ、皆が楽しい方が良いだろ。一クラスに二名の出場も今までに無い特別な事例だしね。言い訳だってスジが通っているじゃないか」
海斗は頭を下げて言った。
「池田会長有り難う御座います。ミスコン! 楽しくやりましょうね。では失礼します!」
海斗達は職員室に寄り、長谷川先生に報告をした。長谷川先生はホットして胸をなで下ろした。そして翌朝のホームルームで海斗達は生徒会から許可が下りた事を発表した。クラスの皆は歓声を上げた。クラスの模擬店は二日目の営業を午前までとして、午後はミスコンの二人を応援する事となった。再びクラスに笑顔が戻ったのだ。
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