第37話 学園祭の朝

 学園祭当日、海斗のクラスのホームルームが始まった。

長谷川先生は教壇に立った。

「皆、揃っているね。男子も女子も準備はいいかい? 学園祭を楽しんでいこうね。部活に行く者、クラスの残る者、怪我をしないようにして下さい」

長谷川先生の話が終わると、皆は模擬店の準備が始めた。


 男子は料理の準備を始めたが、女子から突つかれ廊下へ追い出された。女子はメイド服に早く着替えたかったのだ。松本蓮は嬉しそうな顔をした。

「おい、遠藤、ようやく待ちに待ったメイド姿が見られるな」

「そーなんだよ松本! 長い道のりだったな」海斗も加わった

「うん、わかる、わかる。一時は暗礁に乗り上げたもんな」

 京野颯太は自分の手柄のように振る舞った。

「君達、僕のアドバイスのお陰だろ!」

 海斗は降りなかった。

「いや~、俺の交渉力のお陰だよ」

 遠藤駿は間に入った

「二人ともクラスに貢献したよ、はやく着替え終わらないかな」

男子は首を長くして待った。佐藤美優が教室のドアを開けた。

「男子! 入って来ていいよ」


 男子はワクワクしながら教室に入った。メイド姿の女子は輝いて見えた。

海斗と松本蓮は仲間の女子を探し歩み寄った。海斗は微笑んだ。

「皆、良く似合っているよ。惚れぼれしちゃうよ」

 小野梨紗はスカートを軽く持ち上げ、ポーズを取った。

「海斗、可愛いでしょ」

「とっても似合うよ、お人形さんのようだよ。美咲も莉子もとっても可愛いよ。

 松本蓮は赤面した

「美月、とっても似合っているね、美月が一番かわいいよ」

鎌倉美月は赤くなった

「有り難う、蓮」林莉子は茶化した

「やだー、二人ったら、結婚式と間違えているんじゃないのー!」

皆は笑った。一方では遠藤駿が橋本七海を見付けた。

「橋本さんも佐藤さんも、可愛いよ!」

 佐藤美優は胸を張った。

「当然よ、私達プロなんだからね」橋本七海は京野颯太を見た。

「模擬店が出来たのも、京野君のお陰ね。どう似合っているかしら」

 京野颯太は二人を見て考え事をした。

「お嬢様、二人ともお綺麗ですよ。何かあまりにもステキだから、貸衣装屋の宣材資料に写真を撮らせて頂けませんか。もちろんモデル料はお支払いします」

 橋本七海はすねた。

「もー、すぐ仕事の話をするんだからー!」佐藤美優は皮肉った。

「七海は、すぐ女房になるんだから、もー!」

遠藤駿がうなずくと仲間は笑った。


 男子は裏方に回り、紙皿を並べ電気ポットとホットプレートのスイッチを入れた。

メニューは紅茶とパンケーキセットだ。男子はパンケーキを焼くため生地を作り始めた。接客をするホールには机を並べ、白いテーブルクロスを被せた。


 海斗達は教室の準備を済ませ、写真部の展示教室に向かった。展示教室は昨日の内に準備が終わっているので、状況の確認だけのハズだったが、鎌倉美月がメイド衣装で来た為、写真部部員の餌食になった。

 メイド姿は、まさにミスフォトジェニックだった。芸能人の記者会見のように、鎌倉美月はフラッシュを浴びたのだ。森幸乃は展示教室に着くと騒ぎに気付き、鎌倉美月を引っ張り出した。鎌倉美月はお礼を言った。

「有り難う森さん、まさか、こうなるとは思ってもいなかったよ」

「かわいい、鎌倉さん! これじゃあ、部員の餌食になるわよ」


 四人は展示した一人一人の作品を見て回った。部長の推薦により受賞した、海斗と松本蓮の写真は目の付くところに展示された。松本蓮の写真は夏休祭りの日に、花火をした時に撮った写真だ。手持ち花火の色が彼女達の顔に反映された情緒ある写真だった。海斗の写真は港の見える丘公園で森幸乃を撮った写真だ。海風を浴びスカートと髪をなびかせる少女は爽やかさを感じさせた。鎌倉美月の写真は箱根旅行の時に海賊船から撮った芦ノ湖と雄大な富士が写り込んだ写真だ。森幸乃の写真は課外活動で野毛山動物園に行き、撮影した表情豊かなキリンの写真だった。四人は写真を改めて見返し思い出を共有した。海斗は話しかけた。

「やっぱり蓮の写真は違うね、写真から笑い声が聞こえて来そうだよ!」

「海斗の写真も良いよ。夏の少女の一瞬を切り抜いたみたいで」森幸乃は答えた

「海斗君が撮ってくれた写真、私も気に入っているの。綺麗にとってくれて

有り難う」海斗は森幸乃の写真を褒めた。

「森さんの写真も、キリンの表情まで分かってとっても良いよ」

 松本蓮は鎌倉美月の写真を褒めた。

「美月の写真は雄大さが感じられて、風景写真の王道だね。行ってみたくなる写真だよ」

「有り難う、蓮。ホント、また行きたくなるよね」


 海斗達は森幸乃と別れ、再び教室に戻った。あと十五分で開店時刻となる。既に橋本七海のメイド姿は話題となり、廊下には男子の列が出来た。教室の前で松本蓮は驚いた。

「なあ海斗、凄いなー、始まる前からウチのクラスは列が出来ているんだぜ」

「ホント、凄いな、橋本さん効果だね」鎌倉美月も続いた

「楽しみだね。ワクワクするわ」


 三人は教室に戻り、遠藤駿は海斗達に迎えた。

「おう、お帰り! そろそろ時間だな。運動部じゃ無いけど気合いを入れたいよね。

佐藤さん! メイド喫茶を成功させる為に、気合い入れようぜ!」

 遠藤駿は皆に注目をさせた。

「ねえ皆、いよいよ始まるね。佐藤さんが、頑張るぞって言うから、皆はオー! って続いてね。それを三回やるよ。じゃあ、佐藤さん、お願い」

 佐藤美優は声を張った

「頑張るぞー!」

「オー!」


 生徒は不安な顔から笑顔に変わった。いよいよ開店となった。慣れない作業を男子も女子も頑張った。一時間もすると更に列が長くなった。男子は並ぶお客さんの交通整理をした。すると小野梨紗が生徒を連れて来た。

「海斗! ご氏名のお客さんよ!」


 海斗は首を傾げ、ホールに出ると葵が遊びに来たのだ。葵は裏方に回された。葵は空いている席に座ると、海斗の仲間達が集まった。鎌倉美月は声をかけた。

「葵ちゃん、いらっしゃい」

「お邪魔します。皆さんとっても可愛いですね。高等部の学園祭って、とっても大人っぽいし、楽しいですね」海斗も話しかけた。

「葵、食べて行くでしょ。今、用意するね。」

 海斗は紅茶とパンケーキを葵に出した。すると小野梨紗と中山美咲、林莉子、鎌倉美月は声を合わせてかけ声をかけた。

「萌え、萌え、キュン、キュン、いらっしゃいませ、葵ちゃん」

 葵は感動した

「キャー! 凄い、かわいい。私もキュンキュンしちゃいます!」

皆は笑った。女子は少しの間、葵と話をしてホールに戻った。

 葵は食べながら感動をしていた。

「お兄ちゃん、楽しい模擬店だね、後で写真部の展示室も見てくるね」

「わざわざ来てくれて、有り難う」

 葵は食べ終わると教室を出て行った。生徒は代わる代わる休みを取り昼食を取った。


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