第9話:慈母聖女3
「幾らですか、正当な値段なら全員私が買い取ります。
ですが最初に言っておきますからね。
私もブートル伯爵夫人です、騙されたと分かったら貴方の首をもらいますよ」
「よく言ったルイーズ。
だがルイーズの手を血で汚させる私ではないぞ。
この卑しい奴隷商人がブートル伯爵家を騙したと分かったら。
ここにいる領主軍で一族一門使用人に至るまで皆殺しにしてくれる。
使用人、殺されたくなければ主人の嘘を白状せよ。
真実を話したら、褒美にブートル伯爵家で召し抱えてやる」
父上と母上が最近頻繁に行っている演技をされます。
でも最初は演技ではなく本気の怒りでした。
どの宿場街にも大小の差はありますが色街があります。
色街には売春を強要される男女の奴隷がいます。
その多くが元ウィルブラハム公爵家の領民だったのです。
それを知った父上と母上が彼らを見捨てられるわけがなく、売春宿の主人はもちろん奴隷商人とまで売買交渉することになります。
激しい言い争いと値段交渉が繰り広げられました。
私の資金を心配してくれたのでしょう。
伯爵家の名前はもちろん、直卒している家臣使用人を領主軍と言って脅してまで、奴隷達を買い取る値段を下げようとされました。
最初は演技などではなく必死の交渉だったのですが……
でも宿場街に入る度に同じことを起こるので、今では演技になっています。
「おおおお、ありがとうございます、奥方様」
「ああああ、ウィリアム様じゃ、ウィリアム様が助けてくださった」
「ウィリアム様がご当主になってくださっていれば……」
「うらやましい、ブートルの民が羨まし過ぎます」
父上と母上に助け出された民が口々に礼を言います。
奴隷にされていた元領民だけでなく、乞食になっていた元領民もいます。
いえ、元領民だけでなく、なんの縁も所縁もない奴隷や乞食も助けています。
今では父上も母上も私に遠慮する事も自重する事もなくお金を使っています。
理由は簡単で、父上と母上の前で真珠とダイヤモンドを創り出したからです。
私が幾らでも宝石を創り出せると知ったからこその自重の崩壊です。
まあ、父上と母上なら調子に乗って金銭感覚をなくすことはないでしょう。
「父上、母上、乗馬や駄馬、馬車や荷車、食糧や物資の買い占めは終わりました。
これで王都や次の街に知らせが行く事はないと思われますが、できるだけ早く出発して、次の街の奴隷商人や売春宿の主人が準備できないようにしましょう」
父上と母上に相談して、街道にある宿場町全ての奴隷を買い取り、乞食を救い出し、キャッスル王国まで連れていくことにしました。
どうせ母上が不幸な者達を見捨てられないのなら、助けきれない人に心を痛めるのなら、全員救いだせばいいと覚悟をきめたのです。
それに、コリンヌに聖女を騙られるのは腹が立つのです。
本当に聖女の称号が相応しいのは母上様なのですから。
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