第3話 変化を見抜く者

 私は、王城を訪れていた。

 新たに婚約者となったエルクル様と会うためである。

 私と婚約したいという要請があってから、話はすぐに進んだ。こちら側に、断る理由は一つもなかったため、二つ返事で婚約が成立したのである。


 エルクル様は、知らない人ではない。

 何度か会ったことはあるし、それなりに親しい人だといえる。

 しかし、まさか婚約を申し込んでくるなどとは思っていなかった。こんな不気味な私を、どうして彼は婚約者に選んだのだろうか。


「お待たせして、申し訳ありませんでした」

「あ、いえ……」


 私が部屋に通された後、エルクル様はすぐに来てくれた。

 彼と会うのは、結構久し振りだ。再会を喜んでくれているのか、エルクル様は笑顔である。

 その明るい笑顔は、今の私にとても眩しいものだ。できることなら、私も彼のように笑いたい。私だって、旧知の仲である彼との再会は嬉しいからだ。

 だが、私の鉄仮面はそれを許してくれないだろう。恐らく、表情一つ動いていないはずだ。


「お久し振りですね、お会いできて嬉しいです」

「はい。私も、とても嬉しく思っています」

「ありがとうございます」


 エルクル様は、私の対面に座った。

 口では嬉しいと言ったが、それが彼に伝わっているかが心配だ。

 表情一つ変えない私の感情は、人に伝わりにくい。今も、本当は嬉しくないのではないかと疑われているのではないだろうか。


「そんなに、不安そうな顔をしないでください。僕は、あなたの気持ちをきちんと理解していますよ」

「え?」


 そんな私に、エルクル様はとんでもないことを言ってきた。

 彼は、私の顔を不安そうだと言ったのだ。表情が変わらないはずの私の感情を、どのように読み取ったのだろうか。


「驚くようなことではありませんよ。あなたの顔をよく見ていると、きちんとわかることです」

「そうなのですか?」

「ええ」


 エルクル様は、私が驚いていることまで見抜いていた。

 勘で言っているのかとも思ったが、二回も当てられているのだから、それもないだろう。

 驚くべきことに、エルクル様は私の表情がわかるのだ。私でもわからないことを、どうしてわかるというのだろう。


「不思議に思っていますね? ですが、簡単なことです。あなたの表情はまったく動いていない訳ではありません。本当に少しだけ、他の人が見てもわからないかもしれませんが、変化があるのです」

「そうなのですか? 自分でも、わからないのですけど……」

「それは当然ですよ。自分の顔をそんなにはずっと見ないでしょう? ずっと見ていなければ、あなたの変化はわかりません。だから、自分でわからないのは当然のことですよ」


 エルクル様は、得意気にそう説明してくれた。

 まさか、私の表情に些細な変化があるとは驚きだ。

 しかし、私でもわからないような変化を気づける彼は、一体何者なのだろうか。

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