第2話 脱げない仮面
私は、レフェイグ家の屋敷に帰って来ていた。
婚約破棄を告げると、お父様もお母様も大いに頭を抱えた。私に対して、どうしてそんなことを受け入れたのかなど、色々と言われてしまい、とても辛かったものである。
しかし、二人はすぐに私に声をかけなくなった。私が、表情を変えなかったからだ。
二人も怒っても、表情を変えない私を不気味に思ったのだろう。その辛い事実も表情に出ないのだから、私のこの鉄仮面はかなり強固であるようだ。
「笑う……」
自室にある鏡の前で、私は自分の口の両端を引っ張ってみた。
すると、一応笑顔のような顔が形作れる。しかし、そのぎこちない笑顔は、不気味なものだった。不気味な私が無理やり表情を作っても、また不気味であるようだ。
「悲しむには……どうすればいいんだろう?」
口から手を離した後、私は考える。
笑うには、口の端を歪めれば良かった。だが、悲しむにはどうすればいいのだろうか。
目から涙が流れてくれればいいのかもしれない。だが、涙など表情がなくなってから、流れたことはなかった。私はどうやっても泣くことができないのだ。
そのため、悲しみは表現できなかった。
この鉄仮面は、無理やりやっても、不気味な笑みしかできないようだ。
「いっそのこと……本当に仮面でもつけた方がいいのかな」
鏡の前で、私はそのように呟いた。
仮面をつけていれば、表情を見られることはない。そうすれば、私も不気味がられず済むのではないか。そのように自嘲気味に言ったのだ。
そうやって、自分を蔑んでも、私の表情は変わらない。自嘲したのだから、少しくらいは笑ってくれてもいいのに。動かない表情に、私は悲しくなるのだった。
「失礼します」
「あ、入ってください」
そんな時、私の部屋の戸が叩かれた。
誰かが、私の元を訪ねて来たようだ。
「失礼します。フローナ様」
「リスメナ? どうかしたの?」
部屋に入ってきたのは、私についているメイドのリスメナだった。
私の部屋を訪ねて来るのは、大抵彼女である。
リスメナが部屋に来たということは、何か知らせがあったということだ。一体、何があったのだろうか。
「実は、フローナ様と婚約したいという方が現れたのです」
「私と婚約?」
「ええ」
リスメナの言葉に、私は驚いた。
こんな私と婚約したい者がいる。その事実は、かなり衝撃的なことだ。
「一体、誰が?」
「驚くかもしれませんが、落ち着いて聞いてください。この国の第四王子であるエルクル様です」
「エルクル様?」
私と婚約したいと言ってきたのは、思っていたよりも大物だった。
どうやら、何かすごいことが起ころうとしているようだ。
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