明日の笑顔

生焼け海鵜

第1話

「今日食べるものあるかな?」

 そう言ったのは、桜優だ。

 僕はなんとなく、近くにあった数個のジャガイモを手に取った。

「これだけだね」

 そう呟く。

「だね」

 そう桜優も言葉を返す。

「これからどうしよっか。あの、虫も近づいている事だし、もっと奥に逃げる?」

「僕はここでいい」

 弱音を吐きたくもなる。この腐り果てた世界でたった二人生き延びた所で何も変わらない。

 そう。ここは世界。

 腐り果て朽ち果てた世界。

 僕は、近くに咲いている蒲公英を眺める。

「きれいだね。その花。なんて言うの?」

 桜優は問いかける。

「蒲公英」

「たんぽぽ?」

 目を丸くする桜優。

「ギチギチギチギチギチギチ」

 思考を遮るように、そんな鳴き声が聞こえる。

「虫だ」

 僕は笑う。

 桜優は地下へ続く地上の蓋を開け、中に入ろうとする。

 だが、僕は動きたくない。

 ここで死んだって、後で死んだって結局は死ぬんだ。

 なら、今死んで、早く楽になった方が幸せだ。

 桜優は僕の手を引っ張って、動かそうとする。

 その手を振り払う僕。

「お願い動いて!」

 そう彼女は叫ぶ。

 その声に気づいたのだろう。

 一斉に虫たちが近づいてきた。

 僕は無理やり、地下に引きずり込まれた。

「バカ! 何考えているの? 下手したら死ぬ所だったよ?」

「いや、もう良いかなって」

「何が?」

「僕たちもいずれ死ぬんだから、今死んだ所で変わらないんじゃないかなって」

「バカ! バカ! バカ!」

 そう言って僕の胸を叩く桜優。

「貴方が死んだら、私は何を糧に生きていけばいいの? だって私、貴方の事が」

 最後のほうが小さくて聞こえない。

「なんて言った?」

「な、何でも。あ! イモどうしたの?」

「外」

「やぱっり優磨のバカ! 私お腹が空いて動けないんだから!」

 そんな言葉である事に気づいた。

 この地下室には来たことが無い。

 食べ物を探すついでに辺りを見回すがやはり見たことが無い。

「桜優。あそこに階段がある」

「本当? 私動けないから、おんぶして」

 そう言って僕の背中を突く桜優。

「はいはい」

 そう言って、彼女の胸が背中に伝わえる。

 大きめの膨らみが、背中に当たりなんだか、妙に緊張してしまう。

「何? 顔を赤らめて。胸を押し付けているから? ならもっと押し付けちゃう!」

「ちょっとやめてよ」

「えへへ」

 笑って誤魔化す桜優。

 と言いつつ暗い階段を降りていく。

 何も無いと思っていた、その地下にある何かがあった。

 扉だ。

 僕はその扉を開けて、中に入る。

 そこには光があり、あるおじさんが何やら作業をしていた。

「何じゃ君たち。迷子かね?」

 言いながら作業を続けているおじさん。

「あの、僕たち迷子じゃなくて逃げてきたんです」

 震えた声で言った。

「何? 逃げてきた? どこから?」

「えっと分からないです。戦争が始まってそれで必死に逃げて来たんです」

「戦争とな。ふーんそんな事が。だが、とにかく帰れ。ここはお前らのいる場所じゃない」

「あの、帰ります。帰りますけど、少し食料を分けていただけませんか?」

「食料? そんなんやらん!」

 机の上で作業を続けるおじさん。

「お願いです! 少しで良いですから。じゃないと、桜優が死んでしまいます」

「こ、こんにちは」

 桜優が顔を出す。

「ほう、喋れるなら大丈夫じゃないか」

「でも、お願いします」

「うるさい! 作業の邪魔だ!」

 急に怒鳴るおじさん。

「わかりました。では失礼しました」

 扉を開け、元いた場所に戻ろうとする。

「少年よ。どの国が戦争しているのかね?」

 帰り際そう話したのは、おぼんを持った別のおじさん。

 形相、声、共に瓜二つのおじさん。

「北国と日本です」

「北国とな?!」

 作業をしているおじさんが、立ち上がった。

「はい北国です」

「儂らは、戦争の道具を作っていたのか」

 と、頭を抱えた。

 不意に机の影から虫が出てきた。

「おじさん達、そこに居るのは?」

「あぁ。これか儂らの発明品R-MKじゃ。北国に出荷している物と同じ物だ。北国の物とは違って攻撃はしないがな」

 あの虫と同じ?

「そうとなれば、話は変わってくる。儂らの製品が多大な迷惑をかけた。この場所で守ってあげよう」

 その言葉を聞いた桜優は喜んでいる。

「聞いた? 優磨!」

「聞いたさ。で食料はどうなるんですか?」

「儂らも色々大変なんじゃ。この施設内に畑がある。そこで植物が実を結ぶまでの食料は渡そう。その後は頑張って自分達で作れ」

 畑仕事。家がある頃にやっていた気がする。

「A。案内してあげなさい」

「はいわかりました」

 作業をしているおじさんは、おぼんを持っているおじさんに指示を出した。

「どうぞこちらへ」

 そう言って廊下に案内させる。

 そうやら、この施設はかなり広いようで、歩いても歩いても畑には着かなかった。

 そして。

「ここです」

 そう言ったおじさんは、扉を開け中に入る。

 僕らもそれに続く。

 そこにあったのは、久しぶりに見る青空と豊かな田畑。

 元に、野菜等が植えられ目を出していた。

 角には小屋があり、ベットやトイレがある。

 久しぶりに生きようと思った。

「優磨良かったね」

 彼女は笑顔を見せた。

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明日の笑顔 生焼け海鵜 @gazou_umiu

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