第8話『寝取られ男は基礎練習をする』
「フッ、フッ、フッ」
木の棒でひたすら素振りをする。
全く駄目だ。すごく疲れやすくなってる。
「あー……」
ぐでっと体をだらけさせながら、その場にばたっと仰向(あおむ)けに倒れる。スタミナが本当に乏しい。
体は痛いし、呼吸はすごく早い。
ここから四年間、勉強と組み合わせて山賊撃退まで持っていかないといけないのか。
「どうなんだろうなぁ。無理かなぁ」
とはいいつつも、まぁやらないことにはどうにもならない。
まぁ基礎練だけで技術は後から追いついてくるんだから、まだマシな方ではあるだろう。ひたすら体を鍛えるだけだ。それがなんだかんだ一番きついんだけど。
「やぁジョン。勉強は辞めたのかい?」
「体も鍛えてるのさ、勉強一本じゃ将来不安だろ?」
ふと、背後から声が響いた。
振り向くと、そこにはボーグが分厚い本を抱えて俺を笑いながら見ていた。
「剣かい?」
「まぁな。基礎練をやってる」
リセット前の俺は剣だけじゃなく火縄銃やら発破やら槍やら文字通り武器を選ばなかったんだが、主な理由として俺自身の才能はどこまで行っても凡庸なのでいろいろな武器を覚えてカバーしてたということがある。
だが、その中でも剣は基本的にどの装備でも必ず持っていた。
剣一本あればどんな敵ともある程度戦えるし、槍と比べて短いから持ち運びやすい。刃が鈍っても敵を殴り殺せるというところも都合が良かった。
まぁパーティーの連中が特筆した才能持ちが多かったから追いつくのに必死だったというのも原因ではある。
例えばエリシアはこれから四年後、14歳になったら教会で行われる“属性"の適性検査で火、水、土、風の四属性全てにA級の適性と特殊属性である光属性のC級適性まで発現させているのだ。
S級というのもあるにはあるが、本来S級は文字通り人外が得るもの。さらに言えば光属性というのは最低ランクのE級適性でも重宝されるレベル。四大属性を実質的なトップクラスの適性に更に低くない光属性の適正……まぎれもなく化け物の部類だ。
まず普通の人間はせいぜい1属性が普通(無属性も普通に多く存在する)、貴族でも2属性で上出来、3〜4属性なんてのは神童クラス。んで5属性は……いうまでもない。
ちなみに属性は適性があればあるほどその属性に対応する魔術が上手くなる。魔道具を作るにしても詠唱魔術を使うにしても適性が低ければその適性以上の魔術のパワーを100%引き出すことはできない。
更に言えばB級適性の奴がA級の魔術を使ったところで出力が不安定な上に魔力の燃費もA級適性の奴が使うのに比べて格段に悪くなるのだ。
さて、俺を追放した上に間男のパーティーリーダーのフィールなんだが、こいつは属性適性は火属性のみB級発現なものの、属性とはまた別の“加護“を受けている。
加護というのはいわゆる持って生まれた才能みたいなものだ。努力で追いつけるとかそういう部類のものではない。
とはいえど加護にもピンキリがある。伐採が人より上手くなる加護や料理が何を作っても上手くできる加護……まぁそれでも加護というのは与えられてる人間自体が少ない。
国の大貴族や王族なら加護を継承するみたいなこともあるみたいだが、その中でも下級貴族出身のフィールが得たのは『剣聖の加護』。
英雄クラスの加護でこれがあれば初見でどんな剣だろうが名人のように扱うことができ、その剣のフルパワーを安々と引き出すことができる。更に剣術もそれほど訓練しなくても一流、訓練すれば超一流。
特に剣聖の加護の凄さは10代のなんの訓練も出来てないガキが30代のベテランの上級剣士をボコボコにできるレベルだ。
他のパーティーメンバーも化け物揃いなのだが、ひとまずは置いておこう。で、その中でも俺なんだが。
属性適性は無属性、加護無し。
見事なまでの真っ白野郎だ。なんの才能が裏付けされているわけでもなければ、どれだけ努力してもとことん凡庸だ。
なら凡庸野郎が他の連中に追いつくにはどうするか?
拳、剣、槍、弓、銃、斧、杖、発破、煙幕……ありとあらゆるものを覚えて、どんな状況でも相手より優位に立てるように足掻いて戦わなきゃいけない。
だからだろうか。
俺の戦いは、とことん泥臭かった。それが案外、幼馴染を寝取られた原因なのかもしれないな。
剣聖なんかに比べたらとても王道とは呼べない戦い。
正直なところ、モテる要素は一つもない。
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