第6話『寝取られ男は勉強する』

「ふむふむ、なるほどな。そのときにブロッサミア三代目国王が権力を持っていた門閥貴族たちを粛清したのか」

 かきかきと歴史の勉強をしていく。

ちなみに重要箇所を羽ペンで書き写しているのは羊皮紙……ではなくパピルス。植物由来の薄い紙で、羊皮紙に比べて黄色めで目は粗いけど安い。一般に多く使われてる紙だ。


「ジョン。急に勉強なんか始めてどうしたんだ?」

「あ、父さん」

 ふと横を見ると、そこには筋骨隆々の俺と同じ茶髪のオヤジが立っていた。相変わらず腕が太いな。


「ちょっと将来的に……って思って」

「へぇ。王都の学園にでも行くのか?」

「うーん、まぁできたら行きたいなぁ……って」

「まぁ、いい成績を出して特待生制度とかいうのを使えば平民でも学費免除してもらえるらしいからなぁ。どちらにせよ応援してるぜ、息子」

 そうすると、唐突にがしがしと頭を父さんのゴツゴツした手で撫でられる。

あぁ、懐かしいなぁ。すごく懐かしい。……失いたくないなぁ。なら、もっと頑張らないとな。





 夜。

ホー、ホーとフクロウが鳴いている中で俺は蠟燭は消して月の光を頼りに勉強をしていた。


 本当なら武術の訓練をしたいんだけど、俺自体が武術の基礎や心得は覚えてはいるものの勉強関係は全くのまっさらだ。そう考えると、やはり勉強を先にやっておいたほうがいいと考えた。


 万一山賊を撃退しても、その一年後には15歳。

学園入学時期である。そんな一年ちょいの勉強で入学できるほど王都の学園は甘くない。さらに言えば特待生を勝ち取らないと俺に未来はない……ある意味勉強が本番とも言える。


 しかし、学園を卒業したらどうしようか。

軍人、役人、商会。行き先はいくらでもある。だけど、どうしても型に縛られる生き方はしたくなかった。


 でも、平穏に生きたい。なによりこの世は金で回ってる。

だから金をまずは稼ぎたい。なら学園卒業して学歴エリートになって王国でそこそこ良い稼ぎを得るか蒸気機関に1枚噛んでおこぼれをもらって平穏に暮らせるだけの金を手に入れるしかない。


 ギブアンドテイク。

努力が平穏の対価なのだ。


「はぁー、しっかし目がしばしばすんなぁ」

 羽ペンを一旦紙の横に置く。

背を伸ばしてゴキゴキと音を立てて体をほぐす。


「でもまぁ、ドブさらいになるくらいなら」

 まだ勉強したほうがマシだ。

そういって俺は歴史を勉強していくのだった。無論、徹夜で。

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