第8話 指名手配
平謝りするティーシアを見送った俺は、そのまま肋骨方位磁石を持って街を歩き回った。
しばらく肋骨人形の探索をしてなんの収穫もなく、諦めて昼飯を食った後、街の中央広場で休みながらノートと話をする。
「やっぱ方位磁石を見ると肋骨人形は城の中っぽいんだよなあ。ノート、城の中ってどんな感じだった?」
「人形はいませんでした。ただ、城の全てを確認できた訳ではありません。地下に繋がる階段には結界が張ってあって、昆虫型ゴーレムでは入れませんでした」
「あやしいな、そこ。今晩当たり忍び込んでみるか」
ふと辺りを見回すと、騎士が街の掲示板に釘を打ち付けて何かを貼り出しているのが目についた。誰かお尋ね者を探しているらしく、遠目に見るとその人相画が俺のように見えたので気になったのだ。
騎士が去った後、その張り紙を見にいく。
「やっぱお尋ね者の貼り出しか。どれどれ、年齢8歳前後、蒼い瞳、小妖精を連れている……って、やっぱこれ、俺じゃね?」
「マスター、何か罪を犯しました?」
「心当たりないぞ」
「あぁ、マスターが犯罪に手を染めてしまうなんて……私がしっかりしていないばかりに……」
「何もしてないってば。とりあえず面倒ごとに巻き込まれそうな予感がするな……ボディチェンジしてしらばっくれておくか。オリンピアにこの体以外使っちゃダメって言われたからちょっと気が引けるけど……ナンバー8401のレーザービーム射出特化型人形あたりでいいかな」
「それは本当に洒落にならない犯罪を起こしそうなのでやめてください」
ノートとそんな話をしていると、甲冑で身を固めた騎士達がぞろぞろとやって来て俺たちを取り囲んだ。
「国王の命によりお前を連行する! 生死は問わないとのお達しだ。抵抗するならば、切る!」
騎士のうちの一人がそう言って剣を握る。まだ抜刀はしていないが、いつでも抜いて切ってやるぞというアピールだろう。
(穏やかじゃないなあ。本当に何もしてないのに。これだから人間って面倒だ)
『マスター、どうします? 冗談はさておき、私には国王がマスターを呼びつける理由なんて、肋骨人形がらみしか思いつきませんが。ここは素直について行くのも手かと』
ノートが脳内で話しかけてくる。
(やっぱそう思うよな……でも心配なのが、肋骨人形絡みということは昔捨てた俺を恨んで復讐される可能性もあるってことなんだよな……生死を問わずって言ってたし殺されそうな予感がビンビンする)
『まあ、そこはリスクを取りましょう。いざとなったら私は逃げます』
(そこは助けるって言ってくれよ……)
『私は記録機能しかついていませんので、戦闘は無理です』
「おいっ、聞いてんのか!」
俺を連行すると言っていた騎士が、黙りこくっていた俺を見て剣を抜いた。それに合わせて他の騎士達も揃って抜刀した。
(いちいちうるせえな。とりあえずこいつら殺してぇ……)
『殺してはダメですよ。一旦逃げて考える時間を作りましょう』
(そうするか)
俺は体内の血管に描き込まれた水魔術の魔術回路を起動し、騎士達を水流で押し流す。それと同時に、魔力で身体強化して飛び去った。
とりあえず騎士団を上手く巻いて路地裏に逃げ込んだ俺は、ノートに話しかける。
「ノート、城の様子は今把握してるか? 何か変わったことはあるか?」
「ちょっと待ってください。今確認中です……国王の姿が見えないですね」
「よく分からんなあ。とりあえずどこに隠れるのがいいかな。一旦街の外に逃げようか」
ピイイィィィ!
どこかから笛の音が鳴り響き、見る間に騎士達が集まってきて俺を囲んだ。
「あれ、もう居場所がバレたか。騎士団って結構優秀だな」
騎士達は剣を抜いてジリジリと距離を縮めてくる。どうやら連行じゃなくて俺を殺すことに決めたらしい。
「待て!」
騎士達を掻き分けて、ティーシアが駆けてきた。そして俺の前に立ち、一人で騎士達に立ちはだかる。
「みんな剣を収めてくれ! この場は私に一任してくれ!」
「ふんっ、七光りの役立たずが何の用だ。これは俺たちの仕事だ。引っ込んでろ」
一人だけ甲冑が少し豪快な騎士がティーシアに向かって吐き捨てるように言った。きっと他の騎士より位が上なのだろう。
「マシュー分隊長、少し私に時間をくれ。お願いだ」
ティーシアはそう言うと振り返って膝をつき、俺の肩を掴んだ。彼女は俺の目を見ながら、優しい声で喋りかけてくる。
「ベル、私も状況がよく分かっていないが、騎士団に連行されたら君は処刑されるだろう。生死問わずとはそういうことだ……君は、何か悪いことをしたのか?」
「何もしてないよ」
俺の目をじっと見つめるティーシアの眼を見て、ティーシアの眼は綺麗だな、と俺は思った。もちろん俺の作った人形には劣るが。
(そうだ、どうせならティーシアに城に連行してもらおう)
(昨日何か成果が欲しいとぼやいていたし、俺が他の騎士をボコして、ティーシアがそんな俺を連行すれば良い成果になるだろう)
『それはマスターが騎士達をボコしたいだけなのでは』
(そうとも言う)
完璧な作戦を組み立てた俺はティーシアに言う。
「ティーシア、俺を城に連れて行ってくれ」
ティーシアは返事をせず、何かを決心したように口を堅く結んだ。そして、俺の耳元に口を近づけて小さな声で言う。
「逃げろ。街を出たら南へ行くんだ。他の国への最短距離だ」
ティーシアは俺から手を離し、剣を抜いて他の騎士達に切りかかった。
「馬鹿! ティーシア!」
「ベル! さっさと行け! 私はお前が悪いやつでないと知っている! この御触れはきっと何かの間違いだ!」
(くそっ、馬鹿かティーシアは! どうして俺の言うことを聞かないんだ。これだから人間は嫌いだ!)
(このくらい俺一人で何の問題もなく切り抜けられる。そもそもティーシアの助けなんていらないのに)
(ティーシアは騎士団で成果を上げるんじゃなかったのか? こんなことをしたら確実に騎士団を首になってしまう。下手したら牢獄行きだろ!)
(オリンピアといい、ティーシアといい、どうしてみんなそんなに俺の言うことを聞かないんだ!)
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