32.恋愛感情と性欲なんて大した差は無いのよ。

渡来わたらい「渡会千尋ちひろの、オールナイト多次元世界~……というわけで始まったわけだけど、どうかしら、四月一日わたぬきくん。緊張してる?」


四月一日「緊張以前に説明が全く足りていない気がするんですけど」


渡来「そう?いいじゃない。細かいことは。突然ラジオを始めたって「ああ、そういう回なのね」っていって流してもらえるわよ」


四月一日「いやなりませんから……なんでまた放送室を占拠なんてしたんですか」


 そう。


 四月一日たちは今、放送室の中にいた。


 普段はここから、放送委員がお昼の放送を行っているのだが、気が付いたらこんなことになっていたのだ。


 早業だった。放送委員相手ににこやか美少女スマイルと、よそ行き喋りでうまく取り入り、放送室を見せて欲しいという要望を受け入れさせ、口八丁手八丁で上手いこと委員を放送室の外に誘導すると、即扉を閉めた上で、内側から鍵をかけてしまったのだ。


 ちなみになぜか四月一日も放送室の中にいるままだ。このままだと完全に共犯者である。


 外からはここを開けてくれという声と、ドアを叩く音がかすかに聞こえてくるのだが、そこは放送室。流石の防音性能でほぼほぼカットしてしまっていた。


 そして、そんな手段でのっとった放送室を使って、勝手にラジオらしきことを始めてしまったのである。


渡来「先日ね、ラジオを聞いたのよ。久しぶりに。そしたらまあ、これが全然面白くなくって。台本を読んでるだけみたいな感じなのよ。だから、あれだったら私がやったほうがいいわよねってことで」


四月一日「ここを占拠したんですか……」


渡来「そういうわけ。ごめんなさいね、放送委員の皆さん。ちょっとだけお借りしますね☆」


四月一日「ここでウインクしても見えないと思いますよ……あの、ホントすみません。多分気が済んだらやめると思うので、よろしくお願いします。俺だと止められないと思うんで」


渡来「やめないわよ?」


四月一日「……はい?」


渡来「いったじゃない。オールナイト多次元世界だって。この番組は今から明日の朝まで、多次元世界にお届けするつもりでやるのよ」


四月一日「いやいやいやいや……っていうか、そもそも、多次元世界ってなんですか。なんでまたそんな壮大なんですか」


渡来「だって、全時空にお届けしてる前例があるんだもの。それに対抗するってなったら多次元世界くらいしかないと思わないかしら?」


四月一日「なにに対抗しているんですか全く……」


渡来「さ、時間がないからどんどんお便りを読んでいくわよ。えーっと……ラジオネーム:オールナイト多次元世界大好きさんからのお便りです」


四月一日「そもそもお便りってどっから募ったんですか、どっから」


渡来「えー「初めまして渡会さん」。はい、初めまして。「僕はある声優さんが好きなのですが、その声優さんのことを考えると胸が苦しくなって、夜も眠れません。渡会さん。これは恋でしょうか?」というお便りですね」


四月一日「なんか意外とまともな内容だな」


渡会「そうねー……そういう時にね、すごくいい判断方法があるわよ」


四月一日「そうなのか?」


渡会「ええ、オナ○ーよ」


四月一日「…………はい?」


渡会「だから、オ○ニー。別に自慰行為でもいいけど。それをね、その声優さんを思い浮かべてしてみるの」


四月一日「いやいやいやいや……なんでそうなるんだよ」


渡会「当たり前じゃない。恋愛感情かどうかななんて、それではっきりするのよ。もしそれでもやっとしたのがすっきりしたら、ただの性欲だから、シコって寝ろってことね」


四月一日「ええー……」


渡会「納得いっていないようだけどね、いいかしら四月一日くん。恋愛感情なんてのは大体性欲をそれっぽく仕立て上げただけなのよ。やれれば大体満足なのよ。猿と一緒ね。汚らわしいわ」びりびりっ


四月一日「お便りを破るのやめてもらっていいですか?」


 ちなみにこの後、渡会がみんなから寄せられたお便り……という名の自作自演の産物を数枚読み上げたところで、放送室は無理やり外からこじ開けられ、渡会(となぜか四月一日までもが)延々とお説教を食らうはめとなってしまったことと、この放送室を乗っ取ったゲリラ放送は案外受けが良かったということを添えておきたい。


「次回、オールナイト多次元世界は、貴方の初恋についてメッセージを募集中よ。よろしくね☆」


「……どこに向かってウインクしてるんですか、どこに」

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