17.ジャアナヒラタゴミムシってのもいるのよ。
「ねえ、
「なんですか?またとんでもないことで、」
「しりとりしましょうよ」
「か…………」
嘘……だろ……?
あの暴言の擬人化、
「なんかとてつもない侮辱を感じるのだけど?」
「気のせいでしょう。え、まじでしりとりですか?俺の知ってるのでいいんですよね?相手の言った単語の、一番最後の音を最初に持つ単語を言うっていうあの一般的なしりとりですよね?ラグビーとか言いながら、毒の入った酒を飲まされたりするみたいな、特殊ルールで行われるものじゃないですよね?」
「誰が分かるのよそのネタ……そうよ。あなたの知ってるしりとりで間違いないわよ。やらないの?」
「いや、いいですけど……なんか拍子抜けして……」
今思えば、渡会が何のたくらみも無しに、しりとりなんて遊びをていあんしてくるはずなどあるはずがなかった。なかったのだが、人間というのは恐ろしいもので、彼女からそんな遊びが出てきて、しかもそれが自分の知っているものと同じルールだったというだけで安心してしまうのだから怖い。詐欺というのはこういう心の隙間を狙って行われるのかもしれない。
「それじゃ渡会くんからでいいわよ。大体リンゴから、かしら?」
「そうですね……それじゃあ、リンゴ」
「ゴミムシ」
「ごっ……えっと、「し」ですね?じゃあ、新宿」
「クビホソゴミムシ」
「え?」
「クビホソゴミムシよ。ゴミムシ……違った、四月一日くん」
分かった。
分かってしまった。
これは受けてはいけなかった勝負だ。
渡会のことだ。様々な罵倒や、罵倒につながる語句を知り尽くしているに違いない。そうなってくると、こちらに出来るのは、取り合えず同じ音で繋げることくらいだが、あまり長考すると、そのたびにゴミムシ呼ばわりされそうだ。
と、いう訳で、
「し……し……品川区」
「チッ……」
いま舌打ちした?したよね?
「じゃあ、クロゴキブリ」
パターンを変えてきた。ただ、これもまた、同じパターンでなんとかなるはずだ。
「じゃあ、リュックで」
渡会は眉間にしわを寄せ、
「ほーん……」
いや、そんな表情になる言葉じゃないよね?リュックって。どう考えてもこれ、罵倒語を連続させたいだけだよね?
「糞g」
「お願いだからやめてくれる?」
流石にそれはNGだろう。良い子が検索したらどうする。
渡会の表情は更に険しくなり、
「クソムシ」
「え、それって、生物学上の名前じゃ」
「はやくしなさいなクソムシくん」
駄目だ。この人話が通じない。
仕方ない。ここに繋げるしかない。このまままた「く」に戻してもいいが、それをやると目論見が崩れた渡会から後でどんな報復があるか分からない。
というわけで、
「それじゃあ、シーソーで」
瞬間。
渡会の表情がぱあっと晴れる。うわぁすごぉい。どんだけ罵倒語を言いたかったんだろう、この人。
そんな彼女が選んだ語句はと言えば、
「粗○ン!……あ」
「あ」
んがついたら負け。お後がよろしいようで。
……よろしいのか?これ。
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