第22話 紅映イベント【SIDE紅映】
もしこれが漫画やゲームなら、コマの端に見切れているキャラかペールトーンで描かれているキャラか、よっぽど注視しない限り見落としてしまいそうな男の子だった。
大間違いだった。
私には兄がいる。
強くて、優しくて、大好きなお兄ちゃんだ。
普段は『呪い』っていう危険な現象と戦っている正義の味方で、正直、大陸に遠征に行くって聞いた時は、もう二度と会えないんじゃないかと予感した。
でも、お兄ちゃんは帰ってきてくれた。
やけに帰りが遅かったけど、ただ単に「道に迷った」らしい。「待たせてごめん」と言ってくれたけど、帰ってきてくれただけで十分だった。
全く、お兄ちゃんの方向音痴には呆れる。
でも、決して愛想はつかさない。
私がお兄ちゃんについていてあげれば、お兄ちゃんは無敵だ。お兄ちゃんには私が必要なんだ。
「楪灰想矢くん。前に伊勢神宮まで案内してくれた男の子、紅映も覚えているだろう? 彼はすごいよ! 僕じゃ手も足も出ないくらい強くて聡明だ!」
それなのに、最近の兄は、あんなやつのことをべた褒めする。
(どうして? 私の一番はお兄ちゃんなんだよ? お兄ちゃんが、負けを受け入れるなんて、嫌だよ)
わからない。わからない。
どうして兄は、あんな人の形をした無個性をこんなに称賛するんだろう。
嫌い。嫌いだ。
私のお兄ちゃんを奪ったあいつも、あっさりと一番を譲ってしまう兄の側面も、そして何より、そんなことで胸をもやもやさせる自分自身も、大っ嫌いだ。
「そうだ、紅映。帰ってきたらゲームセンターに連れていくって約束していただろ?」
お兄ちゃんは、約束を破らない。
そういうところは、好き。
「今度の土曜日、行こうな!」
嬉しかった。
お兄ちゃんとデートだ。
そう思っていた。
それなのに。
「やあ想矢くん」
「碧羽さん! 早いですね」
「はは、道に迷っていると思ったかい?」
なんでこいつがいるのよ。
イライラする。
邪魔、しないでよ。
「さあ、紅映。想矢くんだよ」
「紅映さんもいらっしゃったんですね。二度目まして」
「ふんっ」
あいさつなんて、誰がしてやるもんか。
私はあんたを認めないんだから。
「すまないね、想矢くん。紅映は恥ずかしがり屋さんなんだ」
「ちょっと! 変なこと吹き込まないでよ! あんたも勘違いしないでよね。ちょっとお兄ちゃんに認められたからって調子に乗らないでよね!」
私がこいつに惹かれている?
冗談じゃない。
私がこいつに何かを感じているとすれば、それは間違いなく嫌悪だ。
せっかくの、お兄ちゃんとのお出かけなのに。
……こうなったら、できるだけ視界に入れないようにしながら、お兄ちゃんとのお出かけを楽しもう。
そう、思ったのに。
「すまない。急に本部から呼び出しがかかってまた戻らなくちゃいけなくなった」
お兄ちゃんが、まさかの離脱。
そんなのって……ないよ。
「冗談じゃないわ! ここから先は別行動よ! いいわね⁉」
「え」
「何よ! 何か文句があるの⁉」
「いや、そんなことしたら、碧羽さんは悲しむんじゃないですか?」
「あんたが黙っていたらバレないでしょう!」
「今日の思い出を聞かれたらどうするんです? ありもしない出来事を矛盾なくでっちあげられますか?」
「う……それは……」
お兄ちゃんが、悲しむ。そうかもしれない。
お兄ちゃんはきっと、私にこいつと仲良くしてほしかったんだ。お兄ちゃんのことは、私が誰よりわかっている。
でも、それはそれとして、こいつと一緒は何かいやだ。
「ああー! もう! じゃあ私の後をついてきなさい! でも近寄りすぎないこと! いいわね!」
これ以上は、譲らないんだからね。
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