第21話 行くぜ、フリカムイ、力貸せよ
「ほら! 早くはやく!」
「わかったって」
クレーンゲームの一件以来、妙なわだかまりもなくなったオレたちはいろいろなゲームを楽しんでいるわけだが、いかんせんそろそろお腹が空いてきた。
そこで一度ゲームセンターを後にして、飲食店が並ぶ通りにやってきている。
「色んな飲食店があるのね。ねえ、想矢はどれがいいと思う?」
いや、普通のやつならどれがいいか聞かれても困ると思うけど。
まあこと今回に限っては問題ない。
紅映の好みは原作世界でリサーチ済み。
「ここのパンケーキ屋さんはどう? フランス帰りの洋菓子職人さんが作ってるって話題になってたよ」
「……くわしいのね。想矢もパンケーキが好きなの?」
「オレっていうか、オレの知り合いにパンケーキ好きな子がいて、その子から教えてもらった感じ?」
「ふぅん。いいじゃん! 私もここ行ってみたかったんだよね!」
知ってる。
というかまんまゲームの紅映から聞いた知識ひけらかしただけだし。
*
「んー! ふわっふわでおいしいー!」
パンケーキを口に運んだ紅映が思わずといった様子で表情をほころばせる。
幸せそうな紅映を見ていると、オレの方まで嬉しくなってしまう。
幸せな時間というのはあっという間に過ぎてしまうもので、パンケーキはあっという間に胃袋に収まってしまった。
二人して満足感に浸っていると、紅映が神妙な面持ちで口を開いた、
「……最初はさ、お兄ちゃんが一緒に遊べないってなって、なんか、楽しみにしてたぶん、つらかったっていうかさ」
「うん。わかる気がする」
「それで、そのさ、想矢に、当たって、その、ごめん……ね?」
恐るおそると言った様子で、オレの顔色をうかがう紅映。……そうじゃないんだよなぁ。
「うーん。謝られると、こっちも心苦しいかな」
「えと、その、ごめん」
「いや、だからね?」
「あう、ごめんなさい……あ」
オレはつい、自分の首の後ろをわしゃわしゃとかいた。
「オレは、紅映さんに楽しいって思ってもらいたい。だから、そんな悲しそうな顔をしないでほしい」
「……想矢」
「紅映さんはどうなの? オレと一緒に回って、楽しいって、思えてる?」
「思えてる、思えてるよ!」
よかった。
それだけが、唯一の気がかりだったんだ。
「じゃあ、この話は終わり。お互い、変に気を使っててもつかれるだけでしょ?」
「……そう、だね。うん。そうだよね」
「よし。さて、午後はどこをまわ……」
ざわり。
嫌な感覚が、肌を撫でていった。
「想矢? どうしたの?」
「……いる」
「いる? いるって何が?」
「……呪いが、近くにいる」
強くはない。
だが、生まれたてでもない。
そんな呪いが、この近くにいる。
「きゃあっ⁉」
「紅映!!」
「やぁ……ひっぱっちゃ、らめぇっ」
どこからとも伸びた長くて軟体動物的な脚が、紅映を絡み取った。足には吸盤がついていて、紅映に吸いついている。
「タコの呪いか!」
「想矢、たすけて……!」
「当たり前だ!!」
「行くぜ、フリカムイ。力を貸せよ」
箱が開き、中の呪いが具現化される。
呼び出したのは、アイヌ神話に伝わるフリカムイ。
片翼七里(約30Km)はある大きな翼を持った巨鳥だ。
ラートシカムイという巨大なタコと戦ったという伝説があるし(『ぱんどら☆ばーすと』より)、ただのタコ相手には引けを取らないはずだ。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
翼をはためかせ、滑空。
鋭い爪で触手を切り飛ばし、本体の頭(正確には胴体ってテレビで言ってたけど、ようするに顔の上にあるあの丸い部分)を掴んで空へと羽ばたく。
「せっかく取り戻した笑顔なんだよ……曇らせるような真似、してくれてんじゃねえよッ!!」
そのまま、さらに上空へと放り投げると、もう一度強く羽ばたき加速する。
虚空から【空間魔法】で宝剣【クサナギノツルギ】を取り寄せ、一閃。臓物がぐちゃりとはじけ飛ぶ。
まだだ。
斬撃に斬撃を重ねる。
お前がしたことは万死に値すると知れ。
「くたばれッ!!」
最期に、時空を断ち切る斬撃を飛ばし、タコの呪いを完膚なきまでに叩きのめす。
呪いを封印できるのは
「封印」
タコの呪いが、黒い柩に吸い込まれていく。
こと今回においてオレが捕食者でお前は獲物だ。
闇に飲まれよ。
さて、呪いは片付いたし戻るか。
角度をつけて滑空し、地上に舞い戻る。
「紅映さん、大丈夫だった?」
「う、うん……、それより、想矢って、本当にすごかったんだね」
「ふふん、まあね」
なんてったって最強格の呪いを何体も保有してるし、ゲームの世界で好きなだけスキルを取得して好きなだけ上げられるからね。
たぶん、この世で一番強いヤツだ。
「……ちょっと、カッコよかった」
「へ?」
え、聞き間違いか?
「に、二度は言わないんだからね!!」
聞き間違えじゃないっぽい。
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