第15話 そう、心から願って

「……本当に、いいの? ちなつと出会った過去がなくなるかもしれないのよ?」

「ちなつと会えなければ、オレはここに来ていません」

「その推論は極めて危険よ。ちなつを助けられず、あなたの柩が第三者に奪われて因果律がたもたれる可能性もあるわ」

「それはあり得ません」

「どうしてそう言い切れるの?」


 どうしてって……そりゃ。


「ちなつの笑顔はオレが守るって決めたからです」


 どんな時代にいたって、この覚悟は揺るがない。


 神藤さんが目を丸くする。

 最初、彼女は何かを言おうとするように口を開いたが、すぐに閉じると、口元に笑みを浮かべた。


「……そう、ちなつは、しあわせものだね」


 それから、きゅっと口端を結んだ。


「ちなつのこと、よろしくね」

「……最初から、それを案じて?」

「ふふっ、どうだったかなー。さ、こっちに来て?」


 神藤さんに手を引かれ、オレは回廊前の扉に向き合うように立つ。本来取っ手があるべき場所には四角い窪みがあって、一見で超常の柩パンドラと形状が一致するのがわかった。


 ここに柩をはめるのか。

 そういう意図をもって神藤さんのほうを向くと、彼女は小さくうなずいた。ことりと柩を窪みにはめる。


 まばゆい光が、扉の向こうからあふれ出した。

 世界が真っ白に染まるこの感覚を、オレは知っている。


(【アドミニストレータ】と、似ている!)


 オレの背後からオレを追い抜いていくプラズマ。

 それは眼前で収束すると、見慣れたウィンドウを提示してきた。どうやら埋め込んだ超常の柩パンドラに記録された呪いがリスト化されているようで、柩のシリアル番号を指定することで通信が可能になるらしい。


「よし、碧羽さんの柩はこれだな。移送先の時間を指定して、人魚の呪いを送信して……オーケーだな」


 二度三度と間違いがないようにチェックして、オレは送信ボタンをタップした。


(紅映の笑顔が戻る様に、頼む)


 そう、心から願って。

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