第12話 ちなつと駆け引き

「え? 『岩戸』を見学したいの?」


 翌日、オレはちなつに相談した。

 岩戸の内部を見学したいと。


「やっぱ正義の味方の組織って気になるじゃん? 日曜朝のヒーローがいるなら会ってみたいじゃん?」

「あはは。想矢も男の子なんだね!」

「え、オレ女の子に見えてたの?」

「ううん。なんか、もっと大人びたように思えてたから、想矢の意外な一面が見れてわたしはとーっても幸せなんだよ?」


 ちなつの俺に対する好感度が天元突破でやばい。

 原作までには落ち着いてくれるのかな。

 いやもう神藤しんどうじゃなくて笹島ささじまだし原作もへったくれもないけど。


「うーん。できるかなぁ? お姉ちゃんに聞いてみるねっ!」

「なるはやで」

「うんっ!」


 よし。

 打てる手は打ったな。

 後は果報を寝て待つだけ――


「あ! そういえば想矢! 昨日誘拐されたって本当⁉」

「ぶふっ、どっからその話」

「あー!! その反応! 本当だったの⁉」


 ――じゃなかった。

 ちょ、ちなつさん、顔近いです。

 あ、フローラルのいい香りがする。


「……もしかして、『岩戸』に行くのもそのため?」

「え、いや、そんなことないぞ?」

「あー、今嘘ついた!」

「うぇ⁉」

「えー⁉ 本当に嘘だったの⁉」

「なんでちなつが驚いてんだよ!!」

「かまかけただけだったのに!!」

「ジーザス!!」


 ちなつにそこまでの知恵があったとは。

 くそ、見誤った。


「だ、ダメぇぇぇぇ!! やっぱりダメだよぅ!!」

「ダメって、なにが」

「『岩戸』に行っちゃダメ!! 想矢、また危険な目にあおうとしてるもん! わたし、嫌だよぅ!!」

「……」


 オレは、ちなつを救えたんだろうか。

 たしかに、彼女の父の陰謀をすんでのところで阻止出来て、彼女が慕う従姉さんの死を回避できた。


 だけど、オレが救えたのは。

 ちなつではなく、従姉さんだけではないだろうか。


(……ちなつは、誰かを失うことがトラウマなんだ)


 そこに神藤か笹島かの違いはない。

 実際に失ったか失わずに済んだかの違いこそあれど、大事な人を失う恐怖は、今の時間軸の彼女も経験してしまっている。


「ちなつは、勘違いしているよ」

「ふぇ?」


 膝を曲げて、彼女の目の高さに合わせる。


「オレは、危険な目にあいに行くんじゃない。大切な人を助けるために『岩戸』に行きたいんだ」

「大切な、人? 助けるため?」

「うん。そのために、ちなつや神藤のみんなの力が必要なんだ」

「うぅ……そんな言い方、ズルいよ」


 そうかな。

 そうかもしれないな。


「頼む。(ぼっちだから)ちなつしか頼れる人がいないんだ」

「想矢……、そこまで私のことを(特別視してくれてるんだね)っ!」


 ちなつが、力強い目で頷いてくれた。


「分かったよ! 任せて!!」


 ふぅ。

 なんか、『岩戸』に行けるように手を打つだけで疲れたぞ。バグか?

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