第10話 生徒会長よろしくお願いします

 どこまでが本気でどこまでが冗談なのか、まるで掴めない。真剣な話をしていたと思った矢先に――これだもんね。

 僕は今までの話を頭で整理し、口を開く。


「……わかりました。諦めてくれないというのなら、引き受けましょう」


「ほう。素直に了承したのう」


「先ほどの写真ネタで脅すつもりでしょう? これ以上、高校生活を破綻させたくないですからね」


 リアルな話、修復不可能に近いけど。


「ですが、僕からも一つだけ質問をいいですか?」


「む。言ってみよ」


「僕自身から『言霊』を使えないにも関わらず、些細な問題と言いましたよね。その理由を述べてくれませんか?」


 生徒会長を辞退せずと言っても、誰かに負けてしまえば元も子もない。

 だからといって、僕の『言霊』だけでいつまでも乗り切るのは不可能――いずれはネタが割れて終わりだろう。

 純粋な疑問、天音先輩は真っ直ぐ僕を見つめ、


「簡単な話、お主を全力で守り抜く」

「ま、守り抜くって――」

「気付いておらんかったか? 既にお主が生徒会長になった瞬間、入学式の直後から、蓮が見守っておったよ」

「――マジですかっ!?」

「マジもなにも本当です」


 と、寝ていたはずの風宮さん。


「廊下での『論争』も近くで見ていました。……確か、水城夕凪さんでしたよね。もしもの時は、手出しするつもりでした」


 どこで見ていたのだろう――天井裏とか?


「なので、安心してください。校内にいる限りは――授業中、食事中、種別は問わず。すぐに駆け付けますので。……ご不浄中であろうと」


 んんっ? 最後の方、よく聞こえなかった。


「話を要約するとですね」


 風宮さんは人差し指を立て、


「最悪の場合、言動さんの『言霊』――『賛否両論』。私たちが駆け付けるまで、持ち堪えてくれればよいのですよ。……跳ね返しをもってして」


 跳ね返しで――持ち堪える、か。

 多少どころか、かなり不安が残るけど――今はこの言葉を信じるしかない。


「さて、質問の返答は以上じゃ。本題に入ろうかの」


 天音先輩が懐に手を伸ばす。

 手の平サイズの紙切れを一枚――机の上。勢いよく叩き付けた。紙には『生徒会長、引き継ぎ届け』と書かれている。


「我が『言霊』は、天の音を鳴らす者――『雷神』!」


 黒い瞳が僕を射抜く。


「天鳴――雷経!」


 言うや否や、どこかでパチパチッと静電気のような音が鳴った。

 な、なんだ? なにをし――、


「あれ? 僕、いつの間にボールペンを持って」


 ――異変は身近に起きていた。


「な、ななな、んなっ!?」


 か、体が勝手に動いている。左手が紙を押さえ、右手がボールペンを――一年五組から順に、必要事項が記入されていく。

 操り人形のよう、自動的に書き終わってしまった。


「引き継ぎは完了じゃ。言動言也――と。今この瞬間、本日より、正式に『生徒会長』として就任されたし」


 唖然とする僕、天音先輩は不適に笑い、


「ふふん。ワシの命令電気信号を、ちょろっと送ったのじゃよ。元・生徒会長。現・副会長を侮るなかれ」


 素直に驚い――って、副会長?


「負けたからといって、生徒会から除外されるわけではない。ワシの場合、優秀な前歴があってな。副会長として在籍することができた」


 優秀な前歴、か。

 現在の『葉言高校』を見る限り、風紀として乱れている様子はない。それも、この天音先輩の働きの賜物なのだろう。

 先ほどのやり取りを思い出す限り――うん、激しく信じ難いなぁ。


「なんじゃ? その意外そうな顔付きは」

「意外そう、じゃなくて意外です」

「……むぅ。根は真面目なんじゃぞ」


 ぶぅ、と頬を膨らませる天音先輩。仕切り直すよう、僕は右手を差し出し、


「と、とりあえず、よろしくお願いしま――」


「その前に、ここに座るがよい。まっ、就任の儀式みたいなものじゃよ」


 右手が空を切る。

 天音先輩が席を立ち、空席になった場所――放つ威圧感。なんの席かは、すぐに理解できた。生徒会室の窓側、室内の全てを見渡せる位置取り。言われるがまま、僕は椅子を引いて――腰を降ろす。

 天音先輩、風宮さんは深く一礼をし、


「生徒会長」


 二人の声が重なる。


「これからは、いつでも側に――誠心誠意、お仕え致します」

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