第5話 クラスの空気

「ではでは、今渡した紙に必要事項を記入の上、提出。期限は今月いっぱいまでなので厳守するように。以上!」


 と、担任からの一言を締めに最初のホームルームは幕を閉じた。

 クラスメイトの机の上には部活、委員会の手続き用紙が置かれており――皆一様、わぁわぁと楽しそうに喋り合っている。


「どこに入ろっかな」

「うわー、超悩むよね。あ、吹奏楽部とかどう?」

「サッカー部っしょ!」


 そして、僕の机の上にはなにもなかった。

 担任が教室を出て行く寸前、肩をポンと叩きながら、


「あー、言動。お前は楽でよかったな。こんなに早く所属する場所が決まるなんて、前代未聞だぞ? しかも、生徒会長だ。ははっ、胸を張るといい」


「……本音で言ってます?」


「えっ?! ぅ、うむ。このクラスのみんなも、お前のことを誇りに思っているはずだ。なんせ同じクラスに生徒会長! なぁ、みんな?」


 しん、と静まり返る教室。

 つい先ほどの一件も相まって、僕の噂は悪い方向に拡大したに違いない。なんかもう番長みたいな雰囲気なんですけど。誰も話しかけてくるどころか、寄ってくる人すらいないじゃないか。

 隣の人も何気に机の距離が遠いし――うぅ、いきなり一人ぼっち確定ですか? トイレでランチタイムが目に浮かぶ。


 せ、先生ぃいい!


 助けを求めるよう、哀愁ただよう視線を投げ掛けたつもりだったが、


「ひょほー! ……おっと。それじゃあ、私は職員会議があるからね。言動も一度、生徒会室の方に顔を出すように。ま、また明日っ!」


 逃げるように、教室を出て行ってしまった。

 えぇっと――くるり、くるり。僕の見つめる方向、クラスメイトたちが視線を逸らしていく。うん、帰ろう。今日のところは帰ろう。

僕は鞄を手に取り、席を立ち、


「きゃぁああああっ! ご、ごめんなさいぃいい」


 普通に席を立ち上がっただけなのに、近くの女子に謝られた。


「……別に、謝らなくても」


「うっ、ひっく。こ、殺されるぅっ!」


 なんで!? 泣き出す女子、自然と注目を浴びる中、


「げ、言動君! い、いいいやがってるじゃないかっ! や、ややややめてあげげげてあげないかな?」

「そうだよ! 言動君!」

「や、やめてあげようぜ。なっ? せめて、同じクラスの女子くらい優しくさっ」


 男子一丸、非難されてしまった。

 なにもしていない、僕はなにもしていない。単純に立ち上がっただけだよ、人間の基本動作だよ。それだけで叫ばれたら、僕がここでブレイクダンスなんて始めた日には、皆どうするの? なんで、こんな、こんな――、


「…………」


 ――そっと、第一歩を踏み出す。

 それだけで、ハトの群れに走って飛び込んだかのよう――全速力、クラスメイトたちが教室の隅々に四散していった。

 いやぁ、素早い! 僕は歩くダイナマイトか。

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