異世界転喚したヤンキーは、恋に落ちました

凪 渚

第1話 異世界転喚

俺は、眠りの中にいた。


「龍さん! 龍さん!」


 誰かが、俺を呼んでいるのが微かに聞こえる。


 眠りから、覚めようとするが身体が動かなかった。


 俺は、そのまま、深い眠りについた。


 夢の中で、再び誰かが、俺を呼ぶ声がした。


「起きんか! 龍」


 あまりにも、心地の良い眠りだったが、その声に反応し、目を開けた。


 そこは、見たこともない場所だった。


「やっと起きたわい」


 目の前には、見知らぬ老人が立っていた。


「ここは……」


 その言葉に、見知らぬ老人が答えた。


「神の世界――神界じゃ!」


「神……界」


「そう神界じゃよ」


 唐突な展開に、頭がパニックに、なっていた。


「なんだ覚えて無いのか」


 龍は、小さく頷く。


「お主は死んだのじゃ」


「俺が……死んだ……」


「そうじゃ」


「道端で、襲われていた女性を助けようとしてナイフで、刺されたのじゃ」


 龍は、断片的に思い出し初めた。


「そうか、死んじまったなら仕方ないな」


「助けた女性は無事なのか」


「大丈夫じゃ」


「お主の仲間達が退治したからの」


 龍こと大和田 おおわだ りゅう(18)は、暴走族集団、観音會3代目総長で、喧嘩、暴走、何でも御座れの生粋のヤンキーだ。


「あいつら、やるな」


 龍は、嬉しそうに呟いた。


「それで、ここが神界って事は、あんた神様なのか」


「そうじゃ! ワシは転生の神」


「名は無いので好きに呼んでくれ」


「そうか――じゃあおっちゃんで」


 その、近所のおっちゃん呼ばわりに、神様は、少しムッとしたが、話を続けた。


「まず、何故お主がここにいるか説明しよう」


「普通死ぬと、魂は天国か地獄に行く事は知ってるな」


 龍は、頷く。


「だが、お主の様に誰かを守ったりして死んだ時は、その善意の行いから、元の世界以外つまり、異世界への転生が、見とめられているのじゃよ」


「なるほど」


「さらに、転生だが、見た目や記憶、年齢も名前もそのままで転生可能なのじゃ」


「異世界召喚みたいな転生だな」 


「我々の間では、こう呼ばれておる」


「「異世界転喚いせかいてんかん」」


「そのままだな!」


 思わず龍は、ツッコんだ。


「異世界転喚に伴い、特典として、何かしらの能力や力を授けられるが何がよいかの」


 龍は、考える。


「ちなみに、異世界での言語は、サービスで解るようにしとくので感謝しろよ」


「恩着せがましいおっちゃんだな」  


「何か言ったかの」


「いいや、何も」


「次の異世界って、どんな世界なの」


「すまんが、それは、秘密じゃ」


「ケチジジイ」


「ジジイは、酷かろう」


「じゃあ、ケチおっちゃん」


「それなら、良かろう!」 


「それで、良いのかい!」


 またしても、龍は、ツッコんだ。 


「そろそろ、決まったかの」


 龍は、頷いた。


「じゃあ、異世界で1番最強の存在にしてくれ」


「良かろう、 但しその力で変な事は、するなよ!」


「異世界転喚者が、問題起こすと、始末書書かなきゃいけないから大変なのじゃよ」


「始末書って……」


「神界は、会社か!」


 その神界の、システムに、龍は、ツッコまずには、居られなかった。


「異世界転喚後は、まず町を目指すのじゃ」


「では、異世界転喚を開始するぞ」


「おう、色々ありがとな、おっちゃん」 


 その会話が終わると、目の前は光に包まれ、気付いた時には、草原の真ん中に、ポツンと立っていた。


「ここが、異世界か」


 龍は、辺りを見渡し、一息つくと、おっちゃんの言う通り町を目指す事にした。


「さてと、日が暮れる前に町を目指さなきゃ」


 そう言い、歩き出そうとした瞬間、何かが頭上を通過した。


「今なんか通ったような……」


 上を見上げた龍は、驚愕した。


「あれって……」


「「ドラゴンじゃないか!?」」


 その漆黒の翼を持つドラゴンに、龍は、慌てて茂みに隠れた。


「あんなの居るなんて聞いてないよ」



「とりあえず、どっか行くまでやり過ごさなきゃ」


 龍がドラゴンの様子を見ていると、1人の女の子が、草原を走っているのに気付いた。


「危ない、ドラゴンに気づかれたら」


 そのフラグとも思える発言を、回収するかの様にドラゴンは、女の子に向かって襲いかかろうとした。


「ヤバイ!」


 そう思った龍は、咄嗟に茂みから飛び出すと、女の子を助けるべく、全力で走った。


「ちくしょー 転喚したばっかりなのにもう死にそうじゃん」


「ヤバイよ! ヤバイよ!」


 どっかの出◯みたいな事を言いながら、このままでは、間に合わない事を察した。


「どうする……」


 その時、異世界特典の事を、思い出した。


「そうだ、俺は、この世界で1番強い存在なんだ」


「えーーい 一か八かだ」


 龍は、その時、某アニメの技を想像しながらドラゴンにやってみた。


「「かー◯ーはー◯ー波ー!!」」


 すると、手の平から出たビームが、なんとドラゴンを粉粉にしたのだ。


「…………」


 まさか出来ると思っていなかったので、龍は、呆然とした。


「最強にしてくれとは、言ったけどこれヤバくね」


 そう独り言をブツブツ言っていると、さっきの女の子が近づいてきた。


 「あの、助けて頂きありがとうございました」


 それは、綺麗な、長い銀髪で、龍より少し若いとても可愛い美少女だった。


 龍は、思った――これが恋なのだと。


 (補足を入れとくと、龍は、暴走族総長ながら、とてもシャイで女の子との経験ゼロのいわゆる童貞少年なの。)


 初めての初恋に、動揺した龍は、何も喋れずにいると、女の子が続けて話しかけた。


「あの、大丈夫ですか」


「怪我は、ありませんか」


 その言葉に龍は、何を思ったのかドスの効いた声で、答えた。


 「大丈夫でーじょうーぶであります」


 龍は、その言い方に、恥ずかしくなり、赤面した。


 女の子は、さらに話を続ける。


「改めて助けてくれてありがとうございました」


「「私は、ニーニャ《にーにゃ》と申します」」


 その、丁寧な言葉遣いに、さらに、グッときた。


 龍も自己紹介をした。


「観音會、3代目総長、大和田 龍と申します」


「気合だけは、誰にも負けないんでそこんとこ夜露死苦よろしく」


 龍は、いつもの癖でそう挨拶したが、ここが異世界だと言う事を思い出し、またしても赤面した。


「龍様と言うのですね」


「素敵なお名前です」


 龍も負けじとニーニャを褒めた。


「ニーニャちゃんこそ素敵な名前だし、凄く可愛い♪」


「ありがとうございます龍様」


「ニーニャちゃん様なんてよしてよ」


「普通に呼び捨てで良いよ♪」


「わかりました じゃ龍君でどうでしょう」


「大丈夫だよ」


 龍は、ニーニャの君呼びに、なんとも言えない優越感を抱いた。


「龍君て何者なの」


 いきなりの質問に、ちょっとびっくりした。


「何者ってどう言う事」


「だってこの世界で1番強い存在のドラゴンを粉々にしちゃったんだよ」


「あんなの、国王様の、騎士団達にだって不可能だよ」


 龍は、迷った。


 果たして、異世界から来た事を言って良いのかどうか。


 「えーと」


 龍の困った顔にニーニャは、すかさずホローを入れた。


「ごめんね! 聞いちゃダメな事聞いちゃったかな」


 ニーニャの申し訳無さそうな表情に、我慢できなかった龍は、そんな事どうでも良くなり、異世界転喚した事をペラペラと喋った。


「異世界から来た人なんて、初めて会いました」


「だからあんなに強かったのですね」


 龍は、ニーニャに褒められて嬉しかった。


「龍君は、これからどちらかに行かれるのですか」


「一応、町を目指して、いたんだけど道も分からないし困ってたところなんだ」


 ニーニャがポンと手を叩くと、龍に言った。


「龍君、家に来ませんか」


 その唐突な誘いに龍の心臓は、爆発しそうだった。


 (これって噂の夜のお誘いってやつか!?)


「龍君は、命の恩人です」


「家が宿屋なので是非おもてなしさせて下さい」


 龍は、内心ガッカリすると共に少し気が楽になった。


「泊まる所も無いし、お願いしてもいいかな」


 その言葉にニーニャは、満面の笑みで答えた。


 「喜んで!」


 「町までは、ここから歩いて1時間ぐらいなので早速行きましょうか」


 そう言うと、2人は、町に向かって歩き出した。


 龍とニーニャの恋の歯車は、この時動き始めたのだった。

 

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