第42話 ギルドマスターの心中
「ぎ、ギルドマスター大変です! ある冒険者がマラルルスを街まで連れてきました!」
奴との出会いはここから始まった。
マラルルスは食用の草食動物でとても美味しく人気のあるお肉じゃ。しかし、あまり数がおらず繁殖もできないということでかなり値段が高い食べ物でもある。
そんな中、儂がこの知らせを聞いた時は耳を疑った。そして、直接見るまでは決して信じられぬと思っておったのじゃが、受付の者に連れられるとそこには本当におったのじゃ、生きているマラルルスが。
そこで、儂の頭は高速回転を始めた。
マラルルスを生捕りにすることが、できた、ということはどういうことじゃ? 数多の冒険者が、研究者が挑戦し不可能だったことを成し遂げたものがいる、じゃと? そのものは一体何者じゃ? そしてどうしてそんな力がありながらもマラルルスをわざわざここに連れてきたんじゃ?
様々な疑問が頭をよぎりながらも儂はその者の元へと向かった。そこには一人の男がおった。その者からびっくりするくらい、何も感じることができんかったわい。
ただ、もしマラルルスを連れてくる能力を上手く使えば世界初マラルルスの人為的繁殖に成功できるかもしれない、儂はそう考えた。
もしそんなことになれば、マラルルスの肉はこの街の特産品となり、ここの住民は安くて美味しいお肉を、他の街や国には高値で売り続けることができる。もしかしたらお肉目当てでここに移住してく人もおるかもしれん。
頭の電卓をずっと弾きながら男と会話したのじゃが、この男からは何も引き出せなかった。まるで雲を掴もうとしているような、そんな感覚に陥ってしまったのじゃ。
儂もギルドマスターとして、その前は冒険者としてあらゆる修羅場をくぐってきたつもりじゃったが、この男は今までにない、明らかな異常性を秘めておった。
その後もうまく儂の言葉を使って返され、儂はぐうの音も出ないほど完膚なきまでに叩きのめされた。マラルルスについての情報はおろか、戦果は何も無かったと言っても過言ではないほどじゃ。
これは要注意しなければならん、儂は直感的にそう感じた。先の受付の者を呼び、専属になるよう命じ失礼の無いように接客すること、要望があったらなるべく聞くようにすること、そしておかしなことがあったら迷わずまず儂に報告することを命じた。
これだけでどうにかなる話かどうかは分からんが、やらないよりは幾分もマシだろう。何か起こってからじゃ手遅れなのじゃ。
儂は久しぶりに背中に冷や汗をかいていることにも気が付かずに、その日を終えた。だが、どこかワクワクしている自分には気づいたのじゃ。
年甲斐もなくはしゃぐとは、まだ儂も冒険者気分が抜けておらんのう。
❇︎
あの者とあった次の日、そしてその次の日もあやつはギルドに顔は見せなかった。もしかして警戒された? はたまた他の街に行った? 可能性としては十分考えられる。利用しようとあんな態度を取ってしまったのは事実じゃからの。
そこから何日か待ってみたものの、奴は姿を見せることはなかった。
くっ、逃した鯛は大きいということか……
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