第19話 働くということ

 結局、俺は白の兎亭に泊まることにした。この世界に来て、初めての雨風が凌げる環境での睡眠だった。


 これはもう野宿には戻れない、そう痛感させられるほどの気持ち良さだった。あまりにも気持ち良過ぎて二度寝してしまったほどだった。


「ふぁー」


 起きると、西日が傾き始めていた。なんて優雅な一日なのだろうか。幸せすぎる、平穏とはかくも至高のものであったのか。もう、働きたくない。


 でも、この宿に泊まるには一日750Gがかかってしまう。しかも前払いだ。つまり俺の残り残高は7250Gだ。残り九日しかここにいられない計算になる。


 更に、これはあくまでここに泊まるだけの値段だ。つまり食事は別料金ということになる。朝ごはんは20Gで、夜は50Gだ。


 朝昼を抜いたとしても、夜は食べるとなると、一日にかかる費用は800Gだ。お、これでも十日間は凌げるってことだな。


 なら今日は働かなくても良いかな? だって、俺、こっちにきてから結構頑張ったし、それくらい良いだろう。週に一回は休みがないと労働基準法に引っかかるしな。というわけで、


「オヤスミナサイ」


 はぁー、三度寝ってさいこ……zz


 ❇︎


 不味い、非常に不味い。現在の所持金から確認しよう。現在、俺の全財産は50Gだ。


 くっ、これには深いわけがあってだな。……布団から離れられなかったのだ。飯は部屋まで持ってきてくれるというサービスまであったのもそれを助長させたんだ。


 つまり、俺は悪くない。悪くないんだが、このままだと俺は今日の晩御飯を食べた時点で明日の野宿が確定する。現在朝日が登ってちょうど真上に行ったところだ。つまり、昼だな。


「昼!?」


 やばい、働かないと野宿だ。野宿だけは絶対に嫌だ。断固として嫌だ。これはもう外に出るしかねーな。


 クッソ、誰だよ、九日間も食って寝、食って寝を繰り返した奴はよー。最後らへんは暇すぎてぼーっとしてるだけだった癖に、そん時に働いとけよ。


「すみません、何か依頼はありますか?」


 俺はギルドに到着すると、前と同じ受付の人に食い気味で聞いてしまっていた。


「あ、あなたは以前の! 薬草の依頼以来、見かけなかったのでてっきり死んだのかと思いましたよ! ご無事で何よりです!」


 おいおい、ご無事で何よりって顔じゃねーぞ、それに死ぬとか平気でいうなよー。あと、依頼以来て。


「まずはギルドカードの提示をお願いします。……タロウ・ヤマダ様ですね。あ、タロウ様には指名依頼が届いておりますよ!」


 そういえばそんな名前だったな、俺。これが決まった時は気づかなかったが、これからこの名前で生きていかなきゃと考えると、まあまあ憂鬱だなー、おい。


 って、指名依頼!?

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