ルミエール
詠月 紫彩
ハデス編
第1話
日ノ国。
そこは古来より“人”と“人ならざるモノ”が共存しながら住んでいる国である。
中でも京ノ都は人ならざるモノが多く巣食っていた。
東に青龍、南に朱雀、西に白虎、北に玄武―――すなわち四神を配し、かつて都があったものの結界故に閉鎖された空間でありながら、光と闇が存在しているのが京ノ都の実態。
だからこそ、京ノ都には今でも棲みついている。
“人ならざるモノ”たちが。
※
深夜の京ノ都、
緑多く古き良き街並みを残した町づくりに努めている町である。
かつては祇園という花の店が立ち並んでいたが、今では漢字を変え、姿を変え、すっかり花の色は褪せて商店街を中心とした昔ながらの住宅街が広がっている。
景観保護のため高いビルが少ない町の中でやや高いビルの屋上に少年はいた。
見慣れない上に目立つ白いロングコートを風にはためかせ、彼はビルの上から儀園町を見渡すかのように町を睨んでいた。
「ったく。何なんだよこの国は」
溜息交じりに少年は吐き捨てた。
彼の手には、コートと同じく白い、十字架を模した杖が握られている。
その杖の柄には名前が刻まれている。
――カイル・シュヴェリア、と。
「オレの国よりも……」
カイルの背後に、ゆらりと揺れる大きな影が迫る。
努めて冷静に、かつ確実にカイルは振り向きざまに影の体を杖で薙いだ。
「ゴーストの巣窟だぜ」
杖に纏わりついているのは、先程倒したゴーストの
軽い動作でそれを振り払い、呆れたように溜息を漏らした。
今はまだ年若く魔術師見習いとはいえ、カイルにとっては雑魚ばかりが出て来る。
はっきりと形の捉えられるモノから煙状となり、はっきりと形の捉えられないモノ、獣の形をとっているモノ、この日ノ国に来てまだ数日。
ありとあらゆるモノがカイルに襲いかかってきていた。
「目的の奴の情報は無し。アイツのためとはいえ、こんな情報が無い状態でどうやって探せっていうんだよ。ジジィとババァめ。任務が終わったらソッコー文句言いに戻ってやる。報告書と一緒に文句も連ねて提出してやる」
この場にいない人物に毒を吐き、屋上にはもう用もないとばかりに降りようとする。
が、ふと何かの気配を感じ振り返った。
風に乗って、ほんの微量ではあるが感じたことのある空気が混じっている。
もう一度、屋上の縁から町を見渡した。
カイルは一度目を閉じ、揺らぎかけた心を落ち着かせて自分の持つもう一つの目を開いた。
先程まで深い蒼の目をしていたカイルの瞳の色が変わった。
淡い青。
これが光の魔術師、カイル・シュヴェリアのもう一つの能力“幻視の瞳”である。
目に集中し、見えないものを視るための能力。
今では邪眼と同じく貴重な能力であり、世界中を探してもその能力を持つ者は少ない非常に珍しい力だ。
その幻視の瞳で屋上から儀園町を見渡す。
先程感じた空気の元は、すぐに見つかった。
だが、そのあまりの大きさにカイルは愕然とした。
「ゴーストの、渦……」
今まで視たこともない規模。
相当に大きい獲物がそこに居るのだ。
目的のモノか、そうではないかは調査してみないことには分からない。
だがこのような大きなゴーストの渦を見つけたのは幸いである。
見つけた、とばかりにカイルは口の端に笑みを浮かべてビルから飛び降りた。
後に見えるのは漆黒の闇。
そして……犬の声が虚しく深夜の京ノ都に響いた。
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