月の湖

杉野みくや

第1話

 むかしむかし、ある※※※に一人の男の子が絵本を読んでいました。この子の名前は「ソラ」。とにかく好奇心旺盛な※で、興味が湧くとどんな※※でも親に尋ねていました。これは、そんな彼の『※※と※※』の※※です。


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「ねえねえ、お父さん」

 今日もまた、宝石のようにつぶらな瞳を輝かせながら口を開く。ソラが「ねえねえ」と切り出す時は十中八九疑問を投げかける時だ。

「どうしたんだい、ソラ」

「お月さまにはきれいな湖があるってほんと?」

 お父さん思わず悩み顔。嘘をつくのは忍びないが、かといってただ真実を教えても、子どもの豊かな想像力を萎縮させてしまうかもしれない。ゆえに、子どものこの手の質問は誰でも返答に困るものだ。ねえねえどうなの?、とソラは興奮ぎみな声で答えをねだってくる。お父さん悩んだ末にこう返す。

「ふむ、どこでそれを知ったのかな」

 これは子どもからの純粋無垢な質問で困った際に使えるフレーズの一つだ。どこで知ったのかが分かれば、上出来の回答ができるヒントを得られるかもしれない。この前、たまたま見ていたテレビ番組で知った手法だ。お父さん心の中で感謝の土下座を繰り返す。

「この絵本だよ!」

 そう言うとソラは一つの絵本を掲げる。お父さんそれを手に取り、中を開いてみる。そこには、釣り竿を持って月の上を歩いている一人のおじさんが描かれている。次のページをめくると、このおじさんが湖を発見し、そこで釣りを嗜んでいる絵が載っている。

 この不思議な世界観に疑問符を浮かべざるをえないお父さん。しかし、今はそこに脳みその労力を割いている場合ではない。愛しい子どもからの純粋無垢な質問だ。お父さん必死に答えを考える。子どもを傷つけない、かといって現実離れもしすぎていない、『最良』答えを模索する。ソラはその間も、くもりひとつないつぶらな瞳をキラキラさせながらお父さんを見つめる。

 少しして、お父さんやっとこさ口を開く。ソラの目がひときわ大きくなる。

「そうだな……」

「ねえお父さん!あるの!?湖!?月に!?」

「はっはっはっ、少し落ち着いたらどうだいソラ。まだ何も言ってないよ」

「じゃあはやく教えてよ〜」

「ん〜そうだな。……やっぱり、お父さんには月に湖があるかどうかは分からないな」

 ソラのほっぺたがまるで怒ったふぐみたいに一気に膨れる。

「え〜なんだよそれ〜。ほんとは知ってるんでしょ?」

「いやいや、ほんとに分からないんだよ。だってお父さんは月に行ったことがないからね。でも、ソラが月に行けるようになったら、もしかしたら、湖で大きなお魚が釣れるかもしれないね」

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