かねのなるき(続)
明日香狂香
第1話 10年目の真実
出家して10年経ち、ようやく一人前の僧侶になったころ、週刊誌に一枚の写真が載った。それは、友人の天使が飛び降りたあの日の一階の店の店内の写真だった。
「10年目の真実」と題されたその記事には、大物政治家と配信会社社長がバーで楽し気に飲んでいるところだった。そこには総務省の役人も何人か写っている。名前は隠されているが大曽根議員であることはわかる。当時は総務大臣を辞めてはいたが、将来の総理候補と目されていただけにその影響力は絶大だったろう。
「福太が隠したかった事実はこれだったんだ。」
僕はその写真を撮った記者に話を聞くことにした。
「普通は記者に合わせることはないんですけど、あの飛び降り自殺については彼も少なからず気にしているようで。」
出版社の担当は、会社の会議室で会うことを了承してくれた。
「明り取りの窓から写真を撮った後、急いで社に帰ったんで、ご友人の飛び降りは知らなかったんです。知っていたら、すぐに助けに行きましたよ。」
窓が高くて足場を探していたら、近くにマットがあってそれを窓の下に立てかけてそれに上って写真を撮ったらしい。それをさらに浮浪者が持ち去ったわけだ。
「放送事業を拡大したい社長が接待していた現場だ。しかし、官邸からの圧力だったのか、現場で直後に自殺があったという理由で出版する機会を失っちまった。今回は接待問題が浮上したおかげで日の目を見ることができた。あの時は写真を撮ったことに気づかれて、日よけを降ろされ、慌てて帰ったよ。知らなかったこととは言え、ご友人には悪いことをしたと思っている。」
マットがなくなっていた理由はわかった。そして、直前に日よけが下げられたことも。しかし、なぜ天使が飛び降りなければならなかったか、その必然性がない。
「ずっと張ってたんですか?」
「いや、当日匿名でタレコミがあって、半信半疑で出かけて行ったら現場に遭遇したわけで。」
福太は記者の動きを知っていたんだろうか。いくらなんでも、出版を止めるためにわざわざ福太が事件を起こしたとは考えにくい。福太がカメラマンに気づいてからマットを用意するには時間がかかり過ぎる。天使が死んだので大騒ぎになったが、飛び降りが成功していたとしても、やはり騒ぎになっていたろう。福太は何らかの目的で騒ぎを起こす必要があったんだと思う。福太の最大の目的は接待を成功させることのはずだ。しかし、騒ぎが起これば中断され失敗なんじゃないか。
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